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武士も鏡を見て心を整えていた
酔っ払ってご機嫌な人はやらないほうがいい“もったいない行動”をご存知ですか。それは「鏡を見る」ことです。
居酒屋で酔っ払って大騒ぎしていたのに、トイレの鏡に映ったベロンベロンに泥酔した自分の顔を見た途端、「なんでこんなに大騒ぎしてるんだ、オレは」と我に返る──。せっかくの酔いが一気にさめてしまう、まさにもったいない状況でしょう。
ただ、ここで言えるのは、酔って弾けてハイになった感情に飲み込まれた自分を、鏡の中のもうひとりの自分が見ているという状況下では、瞬時にして心が冷静になる。つまり本来の自分の感情を取り戻せるということです。
自分自身を見つめる“もうひとりの自分”をつくるのも、ザワついた感情を鎮め、波立った感情をフラットにするための方法です。
意外なことに、江戸時代にも鏡を見ることの重要性を説いた書物が書かれていました。
江戸時代中期、佐賀鍋島藩士・山本常朝が口述し、それを同藩士・田代陣基が筆録しまとめた武士道の書『葉隠』には、武士こそ、常に鏡を見て身なりを整えるべきだという内容の記述があります。
『葉隠』といえば「武士道といふは死ぬことと見つけたり」が有名ですが、いつ死んでもいいように常に身ぎれいにしておくのが武士のあるべき姿で、そのためには鏡を見るのがよい──とも残しています。
その一方では、鏡の中にいるもうひとりの自分を見つめることで、自分の感情を客観視せよ、意識して整えよ、という意味合いも多分に含まれているに違いありません。
鏡を見ることで自らの身体(身だしなみ)と心(自分の感情)を整える。江戸時代の武士が厳しく感情を自制できたのは、自身を冷静に見つめることの大切さを知っていたからなのかもしれません。
「メタ認知」が心の安定のカギ
また、有名ファッションブランド、シャネルの創業者ココ・シャネルも、常に鏡に映った自分の姿を見ることで、自分の感情を落ち着かせたと言います。
ファッションという華やかな業界の第一線で活躍していたからこそ、彼女はひとりの時間をとても大切にしていました。
パーティ好きなのだけれど、パーティの途中で突然ひとりになりたくなると、「はい、おしまい」などと言ってゲストを帰してしまう。そうやって手に入れたひとりの時間にも鏡を見つめては自分を取り戻したと言います。彼女にとっての鏡は、心の平安を取り戻すために欠かせないアイテムだったのでしょう。
あたかも“もうひとりの自分が見ている”かのように自分のことを客観視することを、脳科学の専門用語で「メタ認知」と言います。自分の思考や行動そのものを対象として客観的に把握する力が、メタ認知能力です。
鏡に映った自分の姿を見ることで、自分の心の状態を知る。これはまさに感情の「メタ認知」に他なりません。
鏡を見る効用は、他人の目に映る自分の姿を確認できるだけでなく、自分の目には映らない自分自身の本当の姿を客観視できることなのです。
心がザワついていると感じたら、まず鏡を見ましょう。そこに映る自分は、不安がっているのか、緊張しているのか、不機嫌になっているのか──どんな自分なのかを観察することでも、心は落ち着きを取り戻します。
たとえば、車の運転中に渋滞にハマってイライラしてきたら、一瞬でもバックミラーをのぞいてみましょう。そこに映るイラついた自分の表情を見ることで、「うわ、オレ、イヤな顔してるな」と思えると、スッと冷静になれるものです。
ストレスの多い時代に生きる現代人にとって、鏡を見るという行為は感情コントロールに不可欠な生活習慣になるのではないかと思います。
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イライラしない本
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