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発達障害と呼ばないで

2019.09.23 公開 ポスト

発達障害だったビル・ゲイツはなぜ世界一の大富豪になれのか岡田尊司

ADHD、学習障害、アスペルガー症候群、自閉症……。近年、「発達障害」と診断される人が急増しています。一体、どうしてなのでしょうか? 精神科医・岡田尊司先生の『発達障害と呼ばないで』は、その意外な秘密に迫った一冊。発達障害は「生まれつきの脳機能の障害」という、これまでの常識がガラッと変わることでしょう。そんな本書から、一部を抜粋してお届けします。

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親の教育しだいで障害が「才能」になる

マイクロソフトの創業者のビル・ゲイツも幼少期、社会性の面での発達に課題を抱えた非定型発達の子どもであった。学校から、学年を遅らせてはどうかと勧められたほどであった。

(写真:iStock.com/inarik)

他の子どもと遊ぶことに関心がなく、一人遊びに熱中し、イタズラばかりするわが子を、父親は「頭痛の種」と感じていたが、元教師だった母親は、ビル少年の良き理解者だった。彼女は決して強制せず、本人の主体性を尊重したかかわりを心がけたという。また、否定的なことを言わず、息子の優れた側面にいつも目を注ぐようにしていた。

母親はビル少年が幼い頃から本を読み聞かせることを習慣にしていた。おかげで、ビル少年は本が大好きになったが、彼が特に関心を示したのは百科事典だったという。しかも、彼はAから順番に百科事典を読破してしまった。

小学校時代、得意だったのは算数で、それ以外の教科は目立って優れた成績だったわけではない。だが、両親は学校の勉強よりもビル少年の社会性を伸ばすことに意を注いだ。グループ活動や屋外での活動にできるだけ参加するように配慮した。ことに、ボーイスカウトの活動に参加したことは、ひ弱で、うじうじしていたビル少年を、身体的にも社会性の面でも鍛えるのに役立った。

また、ゲイツ家では、ボードゲームやカードゲームで一家団らんのときを過ごすことを習慣としていた。楽しい会話を交わしながら、ボードゲームやカードゲームに興じることは、ビル少年の社会的能力やコミュニケーション能力の訓練になり、また、彼に一緒に共同作業をする楽しみや戦略的な思考を教えただろう。

また、夏休みは川べりのヒュッテに友人一家とともに二週間ばかり滞在し、ヨット遊びやキャンプファイアー、探検ごっこなどで、おもいっきり遊ぶのが年中行事だった。

働く経験も有効に活用した。彼は小学生のとき、週三回、地方新聞の配達をやって、わずかながら小遣い稼ぎをしたのである。欧米では子どもに早くから仕事をやらせて、自立を促すきっかけにするということがよくやられる。大金持ちの子息であれ王子様であれ、自分で働いて、お金を稼ぐ経験をすることが賞揚される。

小学校六年のときには、コンテンポラリー・クラブという知的な子どもの集まりにも参加して、そこで活動を共にしたり、意見を戦わせたりする経験を積んだ。

わが子をネット依存、ゲーム依存から守れ

十二歳のとき、彼はコンピューターと出合い、それにすっかり魅せられるのであるが、それまでに、弱かった社会性の面でも、相当な訓練を積む機会をもつことができたと言える。

(写真:iStock.com/artursfoto)

彼がもっと早くコンピューターと出合っていたら、コンピューターの優れた技術者になっていたかもしれないが、企業を成功させ、世界的大企業を率いるリーダーとして活躍できていたかどうかは疑問である。

小さいうちは、テレビやビデオ、ゲームやインターネットなどの映像情報メディアに時間を奪われ過ぎないことが、子どもの発達の可能性を損なわない上で重要なことに思える。

非定型発達の子どもは、そうした映像情報メディアにのめり込みやすいところがある。ADHDの子どもも自閉症スペクトラムの子どもも、ネットやゲーム依存になりやすい。重度の依存を生じてしまった場合、ほとんど社会性の発達が止まってしまうようなケースもみられる。

十代の頃の興味にとらわれたまま、時間だけが経って、三十歳、四十歳と年齢だけが上がっていく。しかし、やっていることは十代のときと同じで、ひきこもって昼夜逆転の生活をしながら、起きているときはゲームやネットをして暮らしているというケースも少なくない。

二、三十年前までなら非定型発達の子どもも、成長とともに社会的体験を積んで、社会に適応できたのに、それができない人が増えている一因として、やはり映像情報メディアと過ごす時間が大幅に増えたことにより、社会的体験を積む時間がそれだけ減ってしまったということが影響しているだろう。早くからやり始めた人では、それだけ影響も深刻になりやすい。

ネットなどへの依存が強く、長時間触れる人では、ADHDやうつの傾向がみられることについては数多くの研究がなされている。無気力・無関心になり、不注意や衝動性が悪化することもある。依存性とその弊害については、すでによく知られているところだが、最近では、脳科学的にも有害性が裏付けられている。

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発達障害と呼ばないで

ADHD、学習障害、アスペルガー症候群、自閉症……。近年、「発達障害」と診断される人が急増しています。一体、どうしてなのでしょうか? 精神科医・岡田尊司先生の『発達障害と呼ばないで』は、その意外な秘密に迫った一冊。発達障害は「生まれつきの脳機能の障害」という、これまでの常識がガラッと変わることでしょう。そんな本書から、一部を抜粋してお届けします。

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岡田尊司

1960年、香川県生まれ。精神科医、医学博士。東京大学哲学科中退。京都大学医学部卒。同大学院高次脳科学講座神経生物学教室、脳病態生理学講座精神医 学教室にて研究に従事。現在、京都医療少年院勤務、山形大学客員教授。パーソナリティ障害治療の最前線に立ち、臨床医として若者の心の危機に向かい合う。 

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