終身雇用、年功序列が崩壊し、リストラも当たり前になった昨今。元官僚で、現在はコンサルタントとして世界で活躍するキャメル・ヤマモト氏は、著書『稼ぐ人、安い人、余る人』で、ビジネスパーソンの「選別」が始まっていると説く。この厳しい時代において、わずか1割の「稼ぐ人」になるためには、どのようなことを心がければよいのか? 本書より、その一部をご紹介します。
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社会人には「戒律」が必要だ
「稼ぐ人」になっていくうえで「肯定的ガイド」と並んで、「戒律(否定)的ガイド」も見過ごせません。これからあげる「キャメルの五戒」は、戒律的ガイドのサンプルです。
戒律の内容も変わることはあるかもしれないのですが、肯定とくらべるとずっと永続性のあるものです。これだけは絶対だめ、という戒律をもつことによって、逆に、肯定が生きてきます。否定以外は、原則としてすべてOKという自由さがくっきり出てきます。
私は、若い頃、イスラム教世界に住んでいたこともあって、今の日本をみていると、この「絶対にやってはいけないこと」と、「やってもいい自由」の議論がごっちゃになっていて気味が悪い感じのすることがあります。そのために、かえって肯定・自由の世界もいいかげんになっている感じがします。
ミスミという会社の創業者の田口弘さんが書かれた本で、『隠すな!』という本があります。これは経営についての田口さんの経験に基づく本なのですが、「持たざる経営」という話をされています。
私達の会社は、田口さんの会社のコンサルティングをさせてもらっていますが、この間、同僚の森本さんから、田口さんの経営哲学は、ひょっとすると、西欧からまだ出ていない新しい経営哲学かもしれない、という話が出ました。森本さんが読み取る田口さんの経営哲学は、要するに、「否定」の言葉で書かれているのです。
経営では、いかにして自分達の目標を明確にしてそれを達成するか、明確な戦略を立てて、社員やお客さんに明快な説明をしていくか、という作業をします。教育でも、何かを明確に教える、ということが中心になっています。
ところが、ワイアットの同僚の森本さんが読み取る田口さんは、「持つ」という経営活動の基本を否定することを基本にしています。この田口さんの精神もちょっと拝借しながら、私達プロフェッショナルの中で、「プロフェッショナルの倫理」として「否定している」戒律を「キャメルの五戒」としてまとめてみました。
この「五戒」を守ればいい
戒律(1) 隠さない
これは、慣れるまで勇気がいります。しかし、慣れると(私はまだ修業途上ですが)、こんなに強いことはなさそうです。修業途上の私は、「そうはいっても、相手の状況によっては、隠さざるを得ないこともあるだろう」と常に思っていますが……(企業機密とか、「君だけにいう秘密だよ」といわれたことなど)。
私は今のところ現実的に処理していますが、でも、機密とか秘密のケースも、よくよく考えると、そもそもそういうことが必要なところに問題がある場合も結構あります。何でも機密にしてしまうような人や組織とほんとうにつきあえるのかどうか。いずれにしても、「隠すな」という戒律をもっておくと、物事を深く考えることに自然とつながるようです。
戒律(2) ウソをいわない
戒律(3) 約束を破らない
戒律(2)と戒律(3)はセットで考えています。両方とも「あたりまえ」のことですが、一〇〇%守ることは不可能でしょう。それでも二つの戒律は大切です。深い議論には入りませんが、信頼関係を築くうえで、ウソと約束の問題が非常に重要なことは直観的にも明らかでしょう。ウソをつく人や約束を破る人とはつきあえないでしょうから。
そればかりでなく、自分の自分に対する信頼(自己信頼)を築くためにも、ウソをつかないことや約束を守ることは大切です。
戒律(4) あたまから否定しない
戒律(4)は、私の場合、特に、対人関係で考えています。誰かに会う前に、仮にうわさとして「彼はいいかげんだよ」「彼、あまりアタマよくないよ」「彼、スローなんだ」「彼、強情で手におえないよ」「彼には、このレベルのプロジェクトは無理だよ」等いろいろきいていたとします。
そういう場合も、その人の能力や性格について、「あたまから(つまり先入観として)否定する」ことを避けるようにします。
仮にそういう先入観をもってしまったら、先入観をもっていることを自覚して、ほんとうにそうか、自分の目や耳で、検証していきます。自分で確認できる事実に基づいて判断することを貫きたいと思っているわけです。
戒律(5) 自己限定しない
戒律(5)は、自分について「自分はこんなものだ」「こんなことはできない」といった言い訳的な限定をしないことです。現実直視はもちろん必要ですが、そこで直視しているのは、あくまで今までに自分の意識上に表われた自分という現実です。今、たまたま表われている現実です。可能性はもっとあるはずです。
少なくとも、自分はこんな人間だという限定は、いったんはずしてみることが必要でしょう。
稼ぐ人、安い人、余る人
終身雇用、年功序列が崩壊し、リストラも当たり前になった昨今。元官僚で、現在はコンサルタントとして世界で活躍するキャメル・ヤマモト氏は、著書『稼ぐ人、安い人、余る人』で、ビジネスパーソンの「選別」が始まっていると説く。この厳しい時代において、わずか1割の「稼ぐ人」になるためには、どのようなことを心がければよいのか? 本書より、その一部をご紹介します。