あいちトリエンナーレ2019のロゴをよく見ると、「Taming Y/Our Passion」という英語表記があります。「Taming」は「飼いならすこと」、「Y/Our Passion」は「あなた/わたしたちの(感)情」を示しています。この英語のテーマ、「情の時代」という日本語のテーマにやや詳細なニュアンスを加えつつ、あいトリが直面している感情的な批判や脅迫を予言していたかのよう。
怒りをコンピュータウイルスのようにばらまき、ひとりひとりの感情をハッキングして、その延長線上の社会を乗っ取ることが現実となりつつある現代は、まさに感情に飼いならされた時代。
前回に続いて「あいトリ2019」後半となる今回は、この「Taming/飼いならす」というテーマに関わる作品を紹介していきます。
まず、アンナ・ヴィットの《60分間の笑顔》は、スーツに身を包んだ男女がカメラに向かって60分間微笑み続ける映像作品。
だんだん疲れて飽きている人や、腰や肩がこっているような仕草を見せる人などを映し出していて、これ自体はキュートなおもしろさがある作品となっています。
とはいえ、「その場で微笑んできちんと立っていろ」というのは、なにも特殊な場面設定ではありません。幼稚園から学校、会社、老人ホーム、そして家庭と、あらゆる社会や集団において、ほとんどの人がなんらかのかたちで経験すること。ですが、このように映像を通して「要求する側―従う側」という構造を改めて見せられると、わたしたちの社会がこうした小さな飼いならしの連続によって成り立っていることを思い出させてくれるのです。
ここから先は会員限定のコンテンツです
- 無料!
- 今すぐ会員登録して続きを読む
- 会員の方はログインして続きをお楽しみください ログイン
現代アートは本当にわからないのか?の記事をもっと読む
現代アートは本当にわからないのか?
- バックナンバー
-
- 男性中心の美術史を問い直す!――女性作家...
- ボレマンスとマンダース、2人の異なる「沈...
- 極限まで削ぎ落とされた白さとかたちが表現...
- コロナとインターネットと生きる時代のメデ...
- 「STARS展」を最大限に楽しむ5つのポ...
- 「自由な色彩」と「不自由な直線」の不気味...
- 「美術館女子」に本気でブチギレられない理...
- 3密が新しい贅沢になる?「密です!」なア...
- この日常をいつか味わえますように!「記録...
- おしゃれできない今だから!おうちで楽しむ...
- 宇宙につながる「鏡と窓」――東京都写真美...
- 「表現の不自由展・その後」と、飼いならさ...
- 現代アートで『天体観測』?「見えないもの...
- 魂をめぐる人生の旅へ!――「塩田千春展:...
- もう古着は着られない!? 充満する死のニ...
- 他者の不幸に誠実に向き合うことは可能か?...