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破壊者 ハカイモノ

2019.09.26 公開 ポスト

「努力しない社員」はもう必要ない…エイベックスの本気の改革松浦勝人

貸しレコード店のアルバイトからエイベックスを創業、そして上場……。芸能界のど真ん中で戦い続けてきた稀代の経営者、松浦勝人。著書『破壊者 ハカイモノ』は、彼の思考と哲学が凝縮された、読み応えのある一冊だ。ブームの裏側で、彼はどんなことを考えていたのか? そしてなぜ、ここまでの成功を収めることができたのか? ビジネスの真髄に迫った本書の一部をご紹介します。

*   *   *

「働き方」が変わろうとしている

改革というのは、案を出しただけでは何も変わらない。僕が社長になってから、中規模の改革は2度やっていて、社員にしてみれば「またか」という感じがあるかもしれない。「どうせまたたいして変わらないんでしょ?」と思われるかもしれない。そう言われることは、わかっていた。

(写真:iStock.com/metamorworks)

だから、というわけではないけど、この会社の一番の問題点を解消する主要人事も同時に発表する。さらに抜擢人事は今後もある、とする。

この会社の最大の問題点、それは古株の社員たちの中に、全体最適を忘れて、部分最適ばかりに懸命になってしまっている者がいるということ。自分の部署の利益ばかり考えて、他の部署と手柄の奪い合い、利益の奪い合い、そんなことばかりに時間を使っている。僕の目には、それは“仕事”を全然していない社員にしか映らない。

コーポレート執行役員19人全員とも個別面談を進めてきた。その中では「君の問題点はここだ」と詰め、辞めるのか辞めないのか決断しろと突きつけた場面もあった

こんな残酷なこと、僕はしたくない。だって、みんなずっと一緒にやってきた仲間たち。こういう冷たい仕打ちは、僕にとっては一番やりたくないことだし、苦手なこと。でも、古い社員たちの意識が変わってくれないと、エイベックスはもうどうやっても生き残っていけない。

春に社員アンケートを取った時からそれはわかっていた。組織や人事制度をいくら変えてもそれぞれの組織のリーダーの顔ぶれが変わらなければ社員は希望を持てない。エイベックスの上層部の人事はもうそんなところまで来てしまっていた。だから本当に辛いことだったけど、未来のエイベックスのために決断をした。

17年に青山本社が落成する。新しい青山本社は完全フリーアドレス、ペーパーレス、2階をコワーキングスペースにして、誰でも入れるようにするなど、働きがいがあってコミュニケーションも生まれるようにする。

ビル全体をIoT化してセキュリティを担保したり、社員にいろんなサービスを提供したりもする予定だ。フリーアドレスにするということは、無理に会社に来なくてもいい、つまり働き方も多様化するということ。スタジオで音楽を制作する、ライヴ会場の現場で仕事をする、自宅で仕事をする。

どこにいても、ネット環境さえあればSlack(スラック)などのツールを使って、仕事に必要なコミュニケーションがとれる。でも、今はそういうリテラシーが十分でない社員もいるので、青山本社に移ってからは、そういう働き方に慣れていってもらう。

今後はこんな分野に進出したい

日本では、労働関係の法律によって、社員を簡単に解雇することはできない。でも、青山に移ってからは、努力をしない社員は、周りにまったくついていけない、したがって社内プロジェクトにもお呼びがかからない。結果、仕事がなくなって、給料が激減し、居場所がなくなってしまう。そんな会社になる。

(写真:iStock.com/zaozaa09)

なぜ、こんな改革をするかというと、エイベックスが目指すのは「IT×エンタテインメント」企業だから。エンタテインメントを扱うにはITがもはや切り離せないのだから。

そのため、ITエンジニアを大量に新規雇用しようと思っているし、社員にもプログラミングを学んでもらって、アプリやシステムがつくれるぐらいになってもらおうと思っている。もちろん、実際にアプリ開発の仕事をするのは、どこか得意な会社に任せてもいい。だけどITを本当にわかっていないと、交渉ができない。

僕たちは、人任せにせず、音楽を自分たちの手でつくってきた。だからいいものができて、リスナーが受け入れてくれた。音楽だって自分たちでつくれたんだから、ITだってやる気になれば自分たちで絶対つくれるはずだ。

これからはゲームにも進出したい。キュレーションサイトにも進出したい。世間では、ゲームもキュレーションもピークを過ぎたと言われている。だからこそ、僕たちはそこに進出したい。だって、音楽コンテンツを持っているから。

音楽ゲームだったら、貧相な打ちこみ音源を使うんじゃなくて、僕たちは原盤そのものを使うことができる。映像もアーティスト本人のものを使える。芸能界の情報もよくわかっているのだから、僕たちが音楽、芸能ニュースを発信すれば、世間の信用度が違う。信頼されるメディアがつくれる。ということは、広告クライアントは安心して広告をだせる。広告ビジネスモデルがきちんと成立する。

改革の枠組みはできあがったけど、一番大切なのは、それがきちんと運用され、活用されること。せっかく組織の仕組みを大きく変えても、今と変わらない感覚で、今までどおりの働き方では、まったく意味がない。

だからこれはゴールじゃない。スタートでしかない。どう運用して成果に結びつけていくか。それができなかったら、僕の負けだ。僕もエイベックスを去るしかなくなる。僕の戦いは、今、始まった。

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松浦勝人

1964年神奈川県生まれ。エイベックス株式会社代表取締役会長CEO。1983年日本大学経済学部に入学し、1985年貸レコード店「友&愛」にアルバイトとして入る。1986年に(株)ミニマックスを設立。代表取締役になり、「友&愛」上大岡店の経営を行う。1988年エイベックス・ディー・ディー(株)を東京都町田市に設立し、レコード輸入卸販売業を始める。1990年に自社音楽レーベル「avex trax」を設立し、「JULIANA’S TOKYO」CDシリーズなど様々なダンスコンピレーションアルバムを発売。

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