恋愛ツイートなどで大人気の「さえりさん(@N908Sa)」こと、夏生さえりさんが幻冬舎plusで連載したエッセイ『揺れる心の真ん中で』が本になりました! 実は連載中に付き合った方とご結婚されたさえりさん。本書には、そんな20代後半の日々変わりゆく心模様を描いたエッセイを27篇収録しています。「あの日の自分を思い出して涙が止まらない」(28歳女性)「最後の言葉に救われました」(19歳女性)など、嬉しいご感想も届いています。発売を記念し「はじめに」をお届けします。書籍のご購入はこちら(Amazonのサイトへ)から。
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「長年貼っていたポスターを剥がしたとき、いつのまにか壁が汚れていたことや、元々の白さに驚く。あんなふうに、あたしもなってる。汚れてなんていないと、思っていたのに」
二〇一三年六月に書き残した一文だ。
当時ひきこもりだったわたしが、静まりかえった朝方に思い切ってポスターを剥がした瞬間、ハタと思ったこと。
いまだに覚えている。
朝の光が差し込む実家の階段。埃さえも光を含んで煌めいているそのなかを、夜を引きずった目で横切った瞬間のこと。
「あたしだって汚れているんだろうな」
そう、自分の価値を見失いそうになったときのこと。
それから六年が経った。
はたしてわたしは、あのときよりも「汚れている」のだろうか。
きっと六年前の、なにもかもを悲観していたわたしだったら迷わず「そうだよ」と答えるだろう。
でも今は違う。
たぶん人は、“汚れていく”のではなく、“変わっていく”のだ。
そしてその姿を愛せるかどうかは、わたし自身にかかっている。
今はそう、答えることができる。
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本書は、二七歳から二八歳まで、Webマガジンサイト「幻冬舎plus」で約一年間続けた連載に、他の媒体に寄稿したものや書き下ろしを何篇か加えてまとめたものです。
変わっていく自分に、自分自身で驚きながら暮らしていた。
そういう時期に書き綴ったエッセイたちをジャンルごとに分け、時系列順に並べました。
わたしは連載中、二七歳直前に出会った彼と一緒に暮らしはじめ、そして結婚しました。思えばこの時期は、短い人生のなかでも、恋愛観や暮らしへの価値観が、ときにスムーズにときに不穏に、ぐらぐらと変わっていく一年でした。
その揺れを直接的に描いている文章は少ないのですが、よくよく読むと、言葉の端々にそして行間に、当時の心がうっすらと透けてくるようで。ちょっと恥ずかしくなるほど。
なにかを、そして誰かを取材して文章にすることが多かったわたしにとって、自分の心に向かい合い、言葉を探して綴っていくエッセイの執筆は、思いのほか難しく、だからこそ愉しい時間でもありました。
初期のエッセイは、書き方も言葉選びも、自分で読んでいても目を伏せたくなるものばかりなのですが、「若気の至りに甘える」ことにしました。どうか、とある女の一年を、成長を見守るような気持ちで最後までめくってもらえると嬉しいです。
そしてもうひとつ。
ここに描いたのは紛れもなくわたしのことですが、誰にでもあるような普通の暮らしのお話ばかり。読んでいる「あなた」の物語と近いものもあるかもしれません。
読み終わったら(途中でも、もちろん)今度は、あなたも自分の内側や、自分の日々に、ぜひ向き合ってみてください。そこから見えてくるものがきっと、あるはずです。
なんでもない、ささやかな日々を積み重ね、人は気づけば変わっていく。
そんな姿をどうか、楽しんで、そして愛おしんでもらえますように。
二〇一九年九月
夏生さえり
オリジナル缶バッジ付きセット発売決定!
幻冬舎plusでは、『揺れる心の真ん中で』の発売を記念して作られたオリジナル缶バッジ2個と書籍の特別セットを購入受付中。7種類+シークレット1種類の絵柄の中から2個をランダム封入します(税込2,310円)。8種類の絵柄のコンプリートセット(税込4,950円)も。
※発送は10月2日以降を予定
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揺れる心の真ん中で
”すごい勢いで物事は進む。心はいつだってついていけない。けれど、きっとまた何かがわたしに何かをもたらしてくれる”恋愛ツイートで話題のライター:さえりさんが、日々考えている色んなことを、ゆるく(けれど率直に)綴ります。【本連載は書籍化しました】