2011年3月11日の東日本大震災の直後、ある女性が真剣な顔で「やられましたね、アメリカが地震兵器を使って人工地震を起こしたんですよ」と言い出し、次々と「地震兵器説」を語りはじめるので度肝を抜かれたことがあった。
女性いわく、アメリカの軍需企業が海底でボーリング作業を行って十数キロの深さの穴を開け、そこに仕掛けた小型の核爆弾を爆発させることによってあの未曾有の大地震を誘発させたそうだ。さらに、その際に放出される放射能をごまかすために、福島の原発を爆発させたのだと言うからのけぞった。しかも2010年のハイチ地震も、2004年のスマトラ島沖地震も、1995年の阪神淡路大震災も、同じ方式で引き起こされたという。
同じ方式だと言うのに、放射能問題が起きたのは東日本大震災だけで、この時点ですでにつじつまが合わないのだが、女性は「日本を混乱の極みに陥れて、戦争に持ち込むつもりなんですよ」「ネットで『311人工地震』と検索してみてください。いっぱい情報が出て来るんです。これをメディアが報じないのもおかしいでしょう!」と真剣な表情で迫って来る。
大震災の報に接した諸外国からは、「戦争」ではなく「救援」の手が差し伸べられたことは周知の事実だし、「311人工地震」なんて、あんたそりゃそんな極めて限定的なワード検索、陰謀論を趣味とする人々のサイトだけを表示して並べるようなものじゃないですかとツッコミを入れたいところだが、なにしろこの女性とは初対面でもあったので、つとめて無表情を装い、否定も肯定もせず、ただ「はーあ」「ほーお」と発音するだけで精一杯だった。
私は東北の被災地で取材をして、現地の様子を見てもいた。むちゃくちゃになった宮城県沿岸の町を眺めながら、自衛隊員が「戦争より酷いと言っても過言じゃない有様ですよ。あの橋ひとつ落とすのに、何発爆弾がいりますか。これだけのビルを根こそぎひっくり返すのにどれだけの……」と吐き出すように語った光景を思い返すと、現実というものの莫大さと、「地震兵器云々」の世界観との落差があまりに激しく、呆れてしまうのだった。
ところが、地震兵器の陰謀論ではそのような態度をとった私が、別の陰謀論にはするっと引き込まれるという体験をした。
「ボストンマラソン爆弾テロは自作自演です!」というSNSに出会う
2013年4月、アメリカのボストンで開催されたマラソン大会のゴール付近で爆弾テロ事件が発生。死傷者多数、チェチェン人の兄弟が容疑者とされ、激しい銃撃戦の末に一人は射殺、一人は重傷の身で逮捕された。
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オオカミ少女に気をつけろ!
嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。
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