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人生最後のご馳走

2019.09.25 公開 ポスト

リクエスト食、熱々の天ぷら青山ゆみこ

人生最後に何を食べますか?
大阪市東淀川区の淀川キリスト教病院が取り組む「リクエスト食」を取材した書籍『人生最後のご馳走』(19日発売)が話題です。単行本が刊行されたのは2015年のこと。今年に入ってNHKラジオ「すっぴん」で高橋源一郎さんが紹介するなどで反響を呼び、緊急文庫化された本書から試し読み第4回です。

*   *   *

プロローグ───玉井和代さん(74歳・すい臓がん)の「リクエスト食」聞き取りより

(写真:iStock.com/taa22)

 ──玉井さん、こんにちは。明日の夜のリクエスト食、何が召し上がりたいですか。

明日はね、熱々の天ぷらをお願いしたいんです。

 ──揚げたての熱々は美味しいですもんね。お好みの具はありますか?

そうですねえ、海老とかイカとか……南京も好きです。

 ──他にはいかがですか。たとえば椎茸や大葉など、お好きなものは?

わあ、椎茸も大葉も大好きです。でもそんなにいくつもいいんですか?

 ──お好みの量をご用意します。普段から天ぷらはよく召し上がっておられたのですか。

子どもたちも大好きでね。最近は主人と2人ですし、この病気になってからは体に力が入らないので油が怖いから、家では揚げていなかったんです。

 ──天ぷら以外のおかずは何がいいですか。前回、酢の物や茶碗蒸しを食べておられますね。

そうそう、前にいただいた酢の物も美味しくて。

 ──この病院の味付けは、お好みに合っていますか。味のお好みや、ご希望のメニューをおっしゃっていただけると、調理師も作りがいがあります。

それがもう、ほんとに私の好きな味付けなんです。明日の天ぷらも楽しみです。

 ──食欲はいかがですか?

すっかり食欲が出て、今は食事のことばかり考えているくらい。なんだか恥ずかしいわ(笑)。

 ──食べられない時期があったのですか?

前の病院では2、3口しか食べられなかったんです。食事が運ばれてくると、まず量を見て気分が落ち込むんです。食べられないと残さなきゃいけないけど、もったいないから嫌な気持ちになるでしょう。体のためだと頭ではわかっているけれど。食事がとれないので栄養剤を飲むようになったら、味も気持ち悪いししんどくて。

 ──お辛かったんですね……。

ここに来たら、お食事が美味しくて、美味しくて。家みたいに陶器の器で出してくださるし。味付けもお店屋さんみたい。これは、前回のリクエスト食のとき、家族のみんなと一緒でと、看護師さんが撮ってくださったお写真です。

 ──まあ、ひ孫さんがおられるんですか? お若く見えますね。

髪を切ったからかしら。食べられるようになって、元気が出ているのが自分でもわかります。以前は気持ちも落ち込んでいたけれど、今は気分も良くてね、すごく楽しい。どんどん元気になるのが嬉しいんです。ちょっと食べ過ぎじゃないかと思うほど(笑)。 

関連書籍

青山ゆみこ『人生最後のご馳走』

最後に選ぶ一皿に、その人の生きた証が詰まっているーー。淀川キリスト教病院ホスピス緩和ケア病棟では、週に一度、患者が希望する一皿が振る舞われる。家族みんなが大好きだった天ぷら、昔懐かしのハイカラ洋食……臨終の間際によみがえる美味しい記憶と、患者を支える家族、医師、スタッフの想いをていねいに紡いだ「リクエスト食」の物語。

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青山ゆみこ

編集者、ライター。神戸市在住。単行本の編集・構成・執筆、インタビューなどを中心に活動。市井の人から、芸人や研究者、作家など幅広い層で千人超の言葉に耳を傾けてきた。

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