人生最後に何を食べますか?
大阪市東淀川区の淀川キリスト教病院が取り組む「リクエスト食」を取材した書籍『人生最後のご馳走』(19日発売)が話題です。単行本が刊行されたのは2015年のこと。今年に入ってNHKラジオ「すっぴん」で高橋源一郎さんが紹介するなどで反響を呼び、緊急文庫化された本書から試し読み第4回です。
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プロローグ───玉井和代さん(74歳・すい臓がん)の「リクエスト食」聞き取りより
──玉井さん、こんにちは。明日の夜のリクエスト食、何が召し上がりたいですか。
明日はね、熱々の天ぷらをお願いしたいんです。
──揚げたての熱々は美味しいですもんね。お好みの具はありますか?
そうですねえ、海老とかイカとか……南京も好きです。
──他にはいかがですか。たとえば椎茸や大葉など、お好きなものは?
わあ、椎茸も大葉も大好きです。でもそんなにいくつもいいんですか?
──お好みの量をご用意します。普段から天ぷらはよく召し上がっておられたのですか。
子どもたちも大好きでね。最近は主人と2人ですし、この病気になってからは体に力が入らないので油が怖いから、家では揚げていなかったんです。
──天ぷら以外のおかずは何がいいですか。前回、酢の物や茶碗蒸しを食べておられますね。
そうそう、前にいただいた酢の物も美味しくて。
──この病院の味付けは、お好みに合っていますか。味のお好みや、ご希望のメニューをおっしゃっていただけると、調理師も作りがいがあります。
それがもう、ほんとに私の好きな味付けなんです。明日の天ぷらも楽しみです。
──食欲はいかがですか?
すっかり食欲が出て、今は食事のことばかり考えているくらい。なんだか恥ずかしいわ(笑)。
──食べられない時期があったのですか?
前の病院では2、3口しか食べられなかったんです。食事が運ばれてくると、まず量を見て気分が落ち込むんです。食べられないと残さなきゃいけないけど、もったいないから嫌な気持ちになるでしょう。体のためだと頭ではわかっているけれど。食事がとれないので栄養剤を飲むようになったら、味も気持ち悪いししんどくて。
──お辛かったんですね……。
ここに来たら、お食事が美味しくて、美味しくて。家みたいに陶器の器で出してくださるし。味付けもお店屋さんみたい。これは、前回のリクエスト食のとき、家族のみんなと一緒でと、看護師さんが撮ってくださったお写真です。
──まあ、ひ孫さんがおられるんですか? お若く見えますね。
髪を切ったからかしら。食べられるようになって、元気が出ているのが自分でもわかります。以前は気持ちも落ち込んでいたけれど、今は気分も良くてね、すごく楽しい。どんどん元気になるのが嬉しいんです。ちょっと食べ過ぎじゃないかと思うほど(笑)。