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プロ野球怪物伝

2020.02.18 公開 ポスト

野村監督が語る大谷翔平 「100年にひとり」と言われる本当の理由とは?【再掲】野村克也

野村克也さんの選手評は、いつも冷静で的確で、なにより野球と選手への愛がにじみ出ていました。心よりご冥福をお祈りします。

野村さんの著書『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)では、教え子である田中将大、「難攻不落」と評するダルビッシュ有から、ライバルだった王貞治、長嶋茂雄ら昭和の名選手まで、名将ノムさんが嫉妬する38人の「怪物」を徹底分析しています。

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160キロをアウトローにきちんと投げ込める

それでは、大谷のどこが「100年にひとり」なのか。

まずはそのサイズだ。身長193センチ、体重95キロ。われわれの時代に較べれば日本人野球選手の体格ははるかに大きくなったが、そのなかにあっても大谷は大柄で、メジャーリーグにおいても遜色ない。お父さんは社会人野球の、お母さんはバドミントンの選手だったそうだが、大きな身体に生んでくれた両親に感謝しなければならない。

その恵まれた身体を活かし、ピッチャーとして160キロのボールを投げる。これだけでも稀有な存在であるのに、制球力も悪くない。私が「原点」と呼ぶ、アウトコース低めにきちんと投げ込む能力を備えている。

各球場にスピードガンが設置され、球速がスコアボードに表示されるようになってからというもの、とくに若いピッチャーがスピードを意識するようになった。欲を出すようになった。しかし、無理に速いボールを投げようとすれば、力んでしまう。その結果、上半身の力が勝るかたちとなり、フォームのバランスを崩してしまう。いまはニューヨーク・ヤンキースのエースとなった田中将大がそうだった。

ルーキーイヤーに11勝をあげて新人王になった田中は2年目、「ストレートで空振りをとれるようになりたい」と、スピードに磨きをかけた。ところが、ストレートが速くなったことで力任せに三振をとりにいき、それを狙い打ちされるケースが目立った。そのうえ、フォームのバランスを崩し、肩を故障。キレとコントロールまで失ってしまい、9勝に終わった。しかし、翌シーズンはキャンプからバランスのいいフォームで投げることを第一に心がけ、15勝をマークしたのである。

田中がヤンキースに移籍したいまも「バランスを重視している」と語っているように、ピッチングは上半身と下半身のバランスが非常に大切だ。そのためには、コントロールに磨きをかけるのがいい。コントロールを意識して投げればおのずとバランスがよくなり、球速も増すものなのである。

大谷は日本にいたころからそのあたりのことをきちんと理解していたようで、「スピードは自分の持ち味」だとしつつも、「何キロ出したいと思ってやるのではなくて、細かいところを突き詰めていけば相乗効果で伸びていくと思っている」という趣旨の発言をしていた。「空振りをとるより、見逃しの三振をとったときがいちばん気持ちがいい」とも語っていた。あの若さで、しかも日本最速のボールを投げながら、こうした冷静な考え方ができるのはたいしたものである。

プロデビュー戦で見せたバッティングの修正能力

一方、バッターとしてのすごみはどこにあるのか。

長打力はもちろんだが、とりわけ修正能力の高さが目を引く。プロデビュー戦となった2013年、西武との開幕戦。「8番・ライト」で先発出場した大谷は、岸孝之と対した初打席でツーナッシングからインコースのストレートを見逃し、三振に倒れた。しかし、5回の第2打席では、同じインコースのストレートをライト線に弾き返し、二塁打にした。1打席目では手が出なかったインコースのボールをきっちりさばいたのである。高校を卒業したばかりの開幕戦、しかも相手チームのエースを相手に、そんな芸当ができるとは舌を巻くしかない。

1年目は、スイングにいったときに軸足が「く」の字に折れ、左肩が下がることが気になった。しかし、翌年は体幹を強化した成果だろう、軸足にしっかり重心を乗せ、スムーズで鋭い回転運動ができるようになった。軸足が曲がらないので左肩が下がることもなく、内側からバットが出て、外角球でも強く叩けるようになっていた。

唯一の弱点だったアウトローも、シーズンを重ねるごとに克服していき、2016年には3割以上の打率をマーク。9分割したストライクゾーンのうち、アウトコース高めを除くすべてのゾーンで3割を超える打率を残し(真ん中からインコース寄りのゾーンはすべて4割以上)、打ち損じは期待できないようになった。この数字は大谷の修正能力の高さを雄弁に物語っている。

そしてなにより、大谷が登場すると、「何かが起こるのではないか」というムードにスタジアムが包まれる。つまり、理屈では説明できない、「何か」を大谷は持っているのである。スーパースターとはそういうものだ。

そして、その期待に応えられるのが、大谷が「怪物」たる所以(ゆえん)だといえる。象徴的だったのが、2016年のシーズン後に行われた、侍ジャパンの強化試合だった。オランダとの第3戦で、大谷は4点をリードされて迎えた5回に追撃ののろしをあげるホームランを放つと、第4戦は6点を追う7回に代打で登場、東京ドームの天井に吸い込まれる特大の「二塁打」。この一打で火がついた日本は、一挙に6点を奪い、同点に追いついたのだった。

 

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この続きは、『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)で。全国の書店で好評発売中です。

野村克也『プロ野球怪物伝 大谷翔平、田中将大から王・長嶋ら昭和の名選手まで』

攻略法のなかった松井、
史上最高の右バッター落合、
本格派と技巧派、変幻自在のダルビッシュ……
私が嫉妬する、38人の"常識はずれ"な男たち。

王貞治、長嶋茂雄ら昭和の名選手から、大谷翔平、ダルビッシュ有、佐々木朗希ら新世代のスターまで、名将ノムさんが38人の“怪物”たちを徹底分析!


 

【本書でとりあげる怪物たち】
●大谷翔平……最多勝とホームラン王、両方獲れ
●田中将大……もはや気安く「マーくん」などと呼べない存在に
●江夏 豊……「江夏の21球」明暗を分けた佐々木への6球
●清原和博……私の記録を抜くはずだった男
●伊藤智仁……史上最高の高速スライダー。彼のおかげで日本一監督に
●清宮幸太郎……左ピッチャーとインコースを攻略できるか
●佐々木朗希……"163キロ"の豪腕は本物か。令和最初の怪物候補
●イチロー……現役晩年に見られたある変化
●王 貞治……あえて注目したい「四球数」の記録
●長嶋茂雄……ボールをキャッチしようとした瞬間、バットが目の前に
●金田正一……ピッチャーとしては別格、監督としては失格
●稲尾和久……正確無比の制球力でストライクゾーンを広げてみせた
●江川 卓……元祖・怪物。大学で「楽をすること」を覚えたか
●松坂大輔……実は技巧派だった平成の怪物
●ジョー・スタンカ……忘れられない巨人との日本シリーズでの一球
●ランディ・バース……バックスクリーン3連発を可能にした野球頭脳
●柳田悠岐……誰も真似してはいけない、突然変異の現役最高バッター
●山田哲人……名手クレメンテを彷彿とさせる、三拍子揃った新時代の怪物
●山川穂高……大下、中西、門田……歴代ホームラン王の系譜を継ぐ男 ほか全38名

野村克也『野村のイチロー論』

「正直に言う。私はイチローが好きではない。しかし、彼の才能に最初に目をつけたのはこの俺だ」――名将がはじめて書いた、“天才・イチロー vs. 凡人・野村” 究極の野球人間論!

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野村克也

1935年、京都府生まれ。54年、京都府立峰山高校卒業。南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)にテスト生として入団。首位打者1回、本塁打王9回、打点王7回、MVP5回、ベストナイン19回、ダイヤモンドグラブ賞1回などの成績を残す。65年には戦後初の三冠王(史上2人目)にも輝いた。70年、捕手兼任で監督に就任。73年のパ・リーグ優勝に導く。その後ロッテオリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)、西武ライオンズでプレーし、80年、45歳で現役引退。89年、野球殿堂入り。通算成績は3017試合、2901安打、657本塁打、1988打点、打率.277。指導者として、90~98年、ヤクルトスワローズ監督、リーグ優勝4回、日本一3回。99~2001年、阪神タイガース監督。06~09年、東北楽天ゴールデンイーグルス監督。現在は野球評論家。『野村のイチロー論』『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)など著書多数。

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