塚本邦雄は生前、自分の歌の価値を原稿用紙の枚数に換算して褒められると喜んだというのを聞いたとき、私はなんか下品な男はあんまり好きじゃないんだけど、それでも本屋や文芸誌や文学市場で散文が持つ圧倒的な存在感と優位性に悔しさみたいな感情があったのだとしたら、それはなんかちょっといたたまれない気もした。たった31音のこの歌は、原稿用紙2000枚のあの長編小説と同じだけの価値がある、と文字にするとやっぱりちょっと下品なのだけど。
曙町の喫茶店でそんなことをなんとなく思い出したのは、30分後に観る予定の映画が16分で1800円という、塚本もびっくりのぶっ飛んだ価格設定だったという理由がもちろんある。眼球切るシーン以外特に覚えていない『アンダルシアの犬』より5分も短い。ジャック&ベティの会員割引も他の上映館の曜日・深夜割引も適用されず、下品に値段で割れば1分112円で、先月観たタランティーノの新作は161分で、深夜割引で観たから1分8円だった。
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夜のオネエサン@文化系
夜のオネエサンが帰ってきた! 今度のオネエサンは文化系。映画やドラマ、本など、旬のエンタメを糸口に、半径1メートル圏内の恋愛・仕事話から人生の深淵まで、めくるめく文体で語り尽くします。
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