野村克也さんの選手評は、いつも冷静で的確で、なにより野球と選手への愛がにじみ出ていました。心よりご冥福をお祈りします。
野村さんの著書『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)では、教え子である田中将大、「難攻不落」と評するダルビッシュ有から、ライバルだった王貞治、長嶋茂雄ら昭和の名選手まで、名将ノムさんが嫉妬する38人の「怪物」を徹底分析しています。
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平成を代表するホームランバッターは誰かと訊かれれば、やはり「おかわりくん」こと中村剛也(埼玉西武)の名前をあげる。
なにしろ2003年に一軍デビューして以降、ホームラン王を6回獲得している。これはもちろん現役最多、歴代でも王、私に続く3位である。
とりわけ圧巻だったのは、「飛ばない」といわれた統一球が導入された2011年。中村は「そんなことは関係ない」と言わんばかりに48本塁打を放ち、2位の松田宣浩(福岡ソフトバンク)に日本記録となる23本差をつけてタイトルに輝いた。この年パ・リーグで生まれたホームランが454本だから、1割以上を中村が打ったことになる。
これもまた日本記録とのことで、その突出ぶりは怪物と呼ぶしかないだろう。2019年7月には通算400本塁打をマークしたが、1405安打目での達成は田淵の1290本、王の1375本に次いで少ないそうだ。
それでは、中村がホームランを量産できる秘密はどこにあるのか――。
第一は、失投を見逃さないことである。そして第二に、その失投を確実にスタンドにもっていくだけの技術と集中力を持っているということだ。
中村はフルスイングが持ち味といえるが、フォームから力みが感じられない。バットを柔らかく持ち、グリップの位置も低い。それでも打球を遠くに飛ばすことができるのは、腕力だけに頼っていないからだろう。
しっかり準備して打席に臨めばもっと打てる
金づちで釘を打つときを思い浮かべてほしい。金づちを強く握り、力任せに振り下ろしても、力がうまく伝わらないばかりか、狙いが狂って釘を曲げてしまう。軽く持ち、スナップを使って振ることで、正確に釘をとらえ、まっすぐ打ち込むことができるのである。
バッティングも同じだ。中村はパワーがあるけれど、上半身に頼ることなく下半身でしっかり「カベ」をつくり、足→腰→腕の順番で身体をしっかり回転させている。
だから、力を入れなくてもヘッドがよく利き、ボールを遠くに飛ばすことができるのである。
聞いたところでは、中村は高校時代に小指を骨折したことでバットを緩めに持つようになったという。そのため肩に無駄な力が入らず、したがってスイングに余計な力がかかることなく下半身がスムーズに回転し、バットのヘッドを走らせることができるのだと思う。
ただ、ホームランも多いが、三振も多い。打率も毎シーズン2割5分程度しか残せていない。おそらく、配球を読んで狙い球を絞るなどということはしないのだろう。来た球をただ打っているように見える。
30代半ばを過ぎ、選手生活の晩年を迎えつつあるだけに、もう少し頭を使い、しっかり準備して打席に臨んでみてはどうだろうか。そうすれば、打率はもちろん、ホームランも増えると思うのだが……。
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【本書でとりあげる怪物たち】
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●江夏 豊……「江夏の21球」明暗を分けた佐々木への6球
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●江川 卓……元祖・怪物。大学で「楽をすること」を覚えたか
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●柳田悠岐……誰も真似してはいけない、突然変異の現役最高バッター
●山田哲人……名手クレメンテを彷彿とさせる、三拍子揃った新時代の怪物
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