苦しいときに耐え、信念を貫くことで、風は吹く。さまざまな重圧を乗り越え、現在も活躍を続けるサッカー元日本代表GK(ゴールキーパー)、川島永嗣。彼の著書『耐心力 重圧をコントロールする術がある』は、重圧をコントロールし、成功をつかむための術を教えてくれる、ファンならずともためになる一冊。読めば「心の体力」がつくこと間違いなしの本書より、一部を抜粋してお届けします。
欧州で学んだ多様な価値観
年齢を重ねれば重ねるほど、世の中には、自分と違う考え方や生き方をする人がたくさんいることを実感する。
海外に出てから、ベルギー、スコットランド、そしてフランスで生活をしてみて、現地の人たちと触れ合ってみるとなおさらそれを感じる。同じ考え方や生き方をする人なんていないし、フランスに来てからは、自分の意見がしっかりしていないとパーソナリティがないとさえ思われてしまう。
だからこそ、人それぞれの世の中で誰かと一緒に何かをすること、コミュニケーションを取ること、ひとつの目標を目指すことの難しさや面白さを味わうことができるのだろう。
人は人とぶつかり合うから面白い。その時の自分と違う意見や考え方にぶつかり合った時に、どういう考え方をするのか。そんなところにもその人の生き方が表れるのではないかと思う。
ベルギーに渡った2010年、ひとりのサッカー選手としてはようやく望んでいた新しい環境でプレーすることになったけれど、その環境を楽しんでいたというより、とにかく必死だった。チームは残留ラインぎりぎりを行ったり来たりして、なかなか結果を出すことができず、僕自身いつも苦しかった。
原因はパフォーマンスや試合結果だけでなく、日本とヨーロッパにおけるサッカー文化の違いにあった。海を渡る前からコミュニケーションの重要性は自分なりに理解していたつもりだ。だから語学も必死に勉強して行った。
それなのに、いざ海外へ出ると、GKとして相手に伝わるような言語で指示を出しても、サッカー観が違うから耳を傾けてもらえない。何度チャレンジしても、叫んでも、指示どおりに動いてもらえない。そんな時間がしばらく続いた。
この挫折をどう乗り越えたのか
初めての海外挑戦に戸惑いを隠せなかったあの頃、追い打ちをかける出来事もあった。2011年1月。日本代表として戦い、優勝したアジアカップは僕にとって決して良い思い出だけではなかった。
あの時、チームは大会を通して成長して、結果としてタイトルを勝ち取った。(香川)真司がケガで離脱するなどのアクシデントを乗り越えて、優勝までたどり着いた。
ただ、ポジティブな結果とは裏腹に、自分にとっては厳しい大会だった。
グループリーグ・シリア戦の退場処分は表面的な事象で、実際のところピッチに立っていても何もかもがうまくいかなかった。そういう時はとにかく気持ちで戦うしかない。アジアカップの舞台で、僕は相手でなく、自分自身と戦っていた。
所属クラブのリールセでは半シーズンを過ごしてわずか2、3勝しかできずに苦しんでいた時期だったけれど、日本代表へ行けば、また自信を持って戦えると思っていた。でもヨーロッパ仕様にアジャストし始めていた僕の感覚は、日本代表にフィットしていなかったし、どうフィットさせていけばいいのかわからなかった。
そうして自分の中に生まれた混乱によって、どんどん深みにはまっていった。
あの頃の僕は、精神的にもかなり厳しい時期を過ごしていた。リールセでも、日本代表でも、何をやってもうまくいかない。メンタルが落ちて、誰とも連絡を取らずに部屋に引きこもっていた。
試行錯誤を繰り返す日々の中で、ある結論に達した。
自分以外の誰かのサッカー観を変えることはできない。だから自分が変わっていくしかない。まずは相手の考え方を受け入れて、自分をアジャストさせる。自分の感覚で「当たり前」と感じるプレーがベルギーで理解されないのなら、こちらの考えを変えていくしかない。そこに自分らしさを上乗せして、新たな正解を導き出す。
環境が変われば、正解は変わる。だからまず、その環境における正解を自分で探し出し、自分を変えて、新しい自分を創り出していくことだ。
本当の意味でそれができるようになってからは、目の前で起こる状況が一変した。ようやく自分の感覚でプレーできていると感じられるようになったのは、ベルギーに渡って半年以上が経過した後のことだ。
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耐心力 重圧をコントロールする術がある
苦しいときに耐え、信念を貫くことで、風は吹く。さまざまな重圧を乗り越え、現在も活躍を続けるサッカー元日本代表GK(ゴールキーパー)、川島永嗣。彼の著書『耐心力 重圧をコントロールする術がある』は、重圧をコントロールし、成功をつかむための術を教えてくれる、ファンならずともためになる一冊。読めば「心の体力」がつくこと間違いなしの本書より、一部を抜粋してお届けします。