わたしとSさんは相変わらず、顔を合わせても話をしなかった。それでも恋愛報告メールは届いた。
正直、そんなに珍しい種類の恋愛でもなかったから、わたしはそのメールを読んでも「ふうん」としか思わなかった。彼の職業の話のほうがよっぽど聞きたかったけれど、彼はわたしへのメールに彼女とのことしか書かなかった。
だいたいどのメールも同じ内容で、こんなことをした、こんな話をした、彼女にはこう告白したけれど、受け入れてはもらえなかった、というものだった。だから毎回、返信には悩んだ。
メールを読むたび、きっと彼女は彼を好きじゃないんだろうと思った。けれどさすがにそうは書けなかった。なにせ、彼にとってはほぼ初めての恋なのだ。最初のメールから数年経ち、彼はすでに三十歳をいくつか超えた年齢になっていた。
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愛の病
恋愛小説の名手は、「日常」からどんな「物語」を見出すのか。まるで、一遍の小説を読んでいるかのような読後感を味わえる名エッセイです。