野村克也さんの選手評は、いつも冷静で的確で、なにより野球と選手への愛がにじみ出ていました。心よりご冥福をお祈りします。
野村さんの著書『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)では、教え子である田中将大、「難攻不落」と評するダルビッシュ有から、ライバルだった王貞治、長嶋茂雄ら昭和の名選手まで、名将ノムさんが嫉妬する38人の「怪物」を徹底分析しています。
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本書でとりあげたのは、結果的に昔の選手が多くなってしまった。これには多少のノスタルジーが混じっていること、私の目が肥えてちょっとやそっとの選手を見ても驚くことが少なくなったことが影響しているかもしれないが、最近の選手が総体的に小粒になったという現実も大きいのではないか。全体のレベルが上がったのと比例して、私のいう「常識はずれ」の選手も減ったのである。
そんな状況に現れたのが大谷翔平であり、柳田悠岐であり、山田哲人であり、山川穂高であり、清宮幸太郎である。
清宮と同世代には、1年目に初打席初本塁打を放ち、2年目の2019年はセ・リーグの打点王争いをリードしてオールスターにも選ばれた村上宗隆(ヤクルト)、履正社高時代は「東の清宮、西の安田」と並び称された安田尚憲(ロッテ)、広陵高で甲子園1大会最多の6本塁打をマークした中村奨成(広島)らがおり、そのあとには大阪桐蔭高時代は二刀流として選抜連覇、春夏連覇に貢献し、中日ドラゴンズに入団した根尾昂、その大阪桐蔭に夏の甲子園決勝で敗れたものの、予選から準決勝までたったひとりで投げ抜き、公立の金足農業を準優勝に導いた日本ハムの吉田輝星ら、楽しみな素材が控えている。
そして元号が令和と改められた2019年、岩手県にまたひとり、怪物候補生が出現した。大船渡高校の佐々木朗希投手である。
映像を少し見ただけだが、たしかにいい投げ方をしている。高校日本代表候補合宿で記録したという163キロという数字は、さすがにスピードガンのなんらかの誤作動だと思うが、左足を高く上げ、力みのない、しなやかなフォームから繰り出されるストレートは、150キロを超える。しかも、スライダーやチェンジアップ、フォークなどの変化球もあり、高校生が打つのは無理だろう。
甲子園出場がかかった夏の岩手大会決勝に、佐々木は登板しなかった。故障のリスクを避けたためだという。結果として大船渡高は敗れ、その是非が論議を呼んだ。
私が監督だったらどうしていたか。投げさせていたと思う。佐々木を含めた部員たちは、甲子園に出るために3年間練習を積んできたのである。佐々木本人が「投げたい」と望むなら、それをかなえてやるべきだろう。
肩は消耗品だという。それは事実なのだろう。気合や根性でどうにかなるなどと言うつもりはない(それは私がもっとも嫌悪することだ)。ただ、肩の強さには個人差があると思うし、投げるための筋肉はある程度投げ込まないとつかないのも事実である。批判を承知でいえば、やや甘やかしすぎ、過保護ではないか。
さて、登板回避の是非はともかく、佐々木が大器であることは疑いない。大谷同様、まだ下半身を充分に使えていないように見えるが、それでもこれだけのボールを放れるのはよほど肩が強いのだと思う。あとはどれだけ精密なコントロールを身につけることができるかだ。大きな耳をしていて、大成しそうな雰囲気も持っている。はじめから一軍で使いながら育てていけば、文字通り「令和の怪物」になれるのではないか。私はとても楽しみにしている。
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【本書でとりあげる怪物たち】
●大谷翔平……最多勝とホームラン王、両方獲れ
●田中将大……もはや気安く「マーくん」などと呼べない存在に
●江夏 豊……「江夏の21球」明暗を分けた佐々木への6球
●清原和博……私の記録を抜くはずだった男
●伊藤智仁……史上最高の高速スライダー。彼のおかげで日本一監督に
●清宮幸太郎……左ピッチャーとインコースを攻略できるか
●佐々木朗希……"163キロ"の豪腕は本物か。令和最初の怪物候補
●イチロー……現役晩年に見られたある変化
●王 貞治……あえて注目したい「四球数」の記録
●長嶋茂雄……ボールをキャッチしようとした瞬間、バットが目の前に
●金田正一……ピッチャーとしては別格、監督としては失格
●稲尾和久……正確無比の制球力でストライクゾーンを広げてみせた
●江川 卓……元祖・怪物。大学で「楽をすること」を覚えたか
●松坂大輔……実は技巧派だった平成の怪物
●ジョー・スタンカ……忘れられない巨人との日本シリーズでの一球
●ランディ・バース……バックスクリーン3連発を可能にした野球頭脳
●柳田悠岐……誰も真似してはいけない、突然変異の現役最高バッター
●山田哲人……名手クレメンテを彷彿とさせる、三拍子揃った新時代の怪物
●山川穂高……大下、中西、門田……歴代ホームラン王の系譜を継ぐ男 ほか全38名
プロ野球怪物伝
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