国は「2020年9月を目標にジェネリックの使用割合を80%にする」と閣議決定し様々な施策を進めていますが、医療機関で働くスタッフのジェネリック使用率は58.2%と全国平均72.5%を下回る結果に(18年、厚生労働省調査)。どうして現場の医師たちは先発医薬品にこだわるのか? 「安い」だけでジェネリックを選んでよいのか? 医療業界のタブーに医師が切り込んだ話題作『医者はジェネリックを飲まない』より、試し読みをお届けします。
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2018年7月、新聞などのメディアは、高血圧症の患者さんに処方されているジェネリック(後発医薬品)の一部から、発がん性物質N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)が検出されたことを報じました(毎日新聞 2018年7月6日 等)。この高血圧症治療薬は一般名を「バルサルタン」といい、降圧剤としてよく治療に用いられているアンジオテンシンII受容体拮抗薬のひとつです。
先発の高血圧症治療薬は、スイスの製薬会社が開発した薬でした。
バルサルタンは、日本でも2014年頃から、その薬の後発医薬品として販売されるようになり、約1万9000人の患者さんに処方されていたと推定されます。
発がん性物質の混入が初めて指摘されたのはヨーロッパで、そのニュースが流れるや否や、ヨーロッパでは直ちにこの薬の回収が始まりました。日本でも同様に、新聞に報じられた製薬会社一社がわずかひと月余りで全ての該当製品を回収したそうです。
その後の調査で、発がん性物質は、薬の原料となる原薬に含まれていたことが明らかになりました。この薬を製造している世界各国の製薬会社は、その原薬を作っている会社に対して直ちにリコールを行ったといい、影響を受けた国は22カ国に及ぶとも報じられています。
以前から、NDMAには発がん性があることが知られていました。動物実験では、細胞レベルで遺伝子突然変異、DNA鎖切断、染色体異常などが見られることがわかっています。
また、ラットなどに長期間、このNDMAを投与した場合、または高濃度のNDMAを与えた場合には、肝がん、白血病、リンパ腫、下垂体の腫瘍、甲状腺がんなど数多くの悪性新生物が発生することが確認されています。
このニュースが医療関係者や患者さんたちに対して、大きな衝撃を与えたことは疑う余地がありません。
なぜなら、高齢化がグローバルなレベルで進んでいる昨今、高血圧症で悩んでいる人々が少なくないからです。
2017年厚生労働省調査によると、日本の高血圧症患者は約993万7000人いることがわかっています。男女比で見ると男性が約431万3000人、女性はそれよりも約133万人多い約564万3000人です。その患者さんたちに処方されている降圧剤は相当な数量になるでしょう。
まして「バルサルタン」などのアンジオテンシンII受容体拮抗薬はかなりの患者さんが飲んでいるよく知られた薬でもありますから、こうしたニュースが広がると、「自分の飲んでいる薬は大丈夫なのか?」と、かかりつけの医師や看護師たちに直接質問を投げかけてくることも少なくないのです。これからますます増えていくであろう未来の患者さんにとっても、この発がん性物質の発見は非常に不安をかきたてるニュースになったことは間違いありません。
バルサルタンは、アメリカでは数十年前から広く処方されていたようです。特に高血圧症や心不全などの治療薬として使用されていたといいますが、現在は米食品医薬品局(FDA)の指導により、回収が積極的に進められています。
FDAを日本の官庁に直接当てはめるのは難しいのですが、厚生労働省、農林水産省、経済産業省などの各省の一部の業務を兼務している政府機関であって、特に医薬品と食の安全に関しては大きな権限を持っているところです。
そこが積極的に薬の回収に乗り出したわけですから、このジェネリックの騒動は鎮静化に向かうように見えました。
というのもアメリカは、世界でも一番ジェネリックを使用している、いわばジェネリック王国なのです。
世界各国のジェネリック使用率を調べてみると、いかにアメリカが突出して国民に広くジェネリック医薬品の服用を勧めてきたのかがよくわかります。
厚生労働省の資料によると、世界のジェネリック使用率は、アメリカ91.7%、ドイツ86.3%、イギリス76.6%、フランス67.6%、スペイン65.3%、イタリア59.2%、そして日本は59.0%です。
これは2016年のデータですが、この数値を見ても、いかにアメリカでジェネリックが普及しているかがよくわかります。
それだけに発がん性物質が検出されたショックは大きく、現在でもその余波は続いているようです。
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