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マンマ・ミーア!

2019.11.04 公開 ポスト

二度と行きたくない世界ワースト宿もりともこ

ある日突然、イギリス人の夫から「リコンをクダサーイ」と言われ、傷心と勢いで「カミーノ」へと旅立ったのをきっかけに、世界中を旅し続けている、もりともこさん。
現在、スペイン、イタリア、モロッコでの安宿暮らしを描いた「マンマ・ミーア!」が好評発売中です。
連載3回目となる今回は、80か国以上訪れているもりさんが、”二度と行きたくないワースト宿”。

*   *   *

また同じ国の同じ町を訪れる機会があったとしても、もう二度と、ぜーーーーーーったいに行きたくない宿、それはなんといっても、オーナーが腹黒い宿に決まってますがな。
多少日当たりが悪くて騒音がうるさくて二段ベッドがきしんでも、それ相応の安心価格で、オーナーがニッコリ笑って好きに使わせてくれるようなところなら、1週間やそこらはがまんできますからね。

私が長居する宿の条件:テラスか屋上などのオープンスペースがある、自炊できる、海が見える、オーナーがフレンドリー! 帰国中の現在、住み込みボランティア中の『屋久島ユースホステル』は100%自分好み

宿のオーナとかスタッフって、巨大ホテルの場合はお客には関係ないことが多いけれど、宿の規模が小さくなればなるほど彼らとの距離は縮まって、無視できない存在になってくる。でもそれだけは事前確認ができないところがミソ。
行く前に、【朝食:あり。送迎:なし。オーナー:どケチ】とか分かっていればいいんだけどね、こればっかりは行ってみないと分からないから、運だめし⁉

職業“家なし旅作家”で、世界の安宿を転々としながら生きているから、たまには愛想の悪い宿にも当たってしまう。
タダで長期滞在するために、住み込んで働いた13軒の宿の中では、これまで1軒だけありました。ボランティア従業員としても「これはムリ!」と、1カ月の予定を2週間で切り上げて出て行った宿が。

オーナーのキャラは宿の設備以上に重要!

その宿は「パルマハム」で有名なイタリアのパルマという町にあって、町は小ぎれいで食べ物も美味しくていいところだったんだけど、宿のオーナーがとにかくブラックすぎて極悪すぎてお手上げでした。例を挙げるとキリがないんだけど、まず、宿の使用済みシーツを使いまわせと命令された時は倒れそうになりましたよ。
「使用済みシーツは全部洗わなくていいから。ってゆーか、電気代がかかるから洗わないでくれる? 一枚ずつニオイをかいで、大丈夫そうなのはシワを伸ばして張り直して!」Byイタリア人オーナー(30歳男、本業弁護士)
なんだとーーーーーーー、ボランティアスタッフをナメんなーーっ!

そこはホステルと名はついていたけれど、オーナーが所有するマンションの3つの部屋に2段ベッドをつめこんだようなところで、基本的にオーナーは不在。予約したお客すべてに、事前に玄関ロックを開けるパスコードやルームキーの置き場なんかを教えておいて、客自身にセルフ・チェックインやチェック・アウトをやらせている宿だった。最近、そういうのも流行ってるけどね、民泊みたいなところなら。
でもそれだと「ホステルなのに無人」とか、予約サイトのレビューに書かれかねないから、オーナーは外国人ボランティア2名を客室の男女6人部屋にタダで住まわせることで有人化。緊急事態や汚いこと(悪臭チェック)はボランティアスタッフ、つまり私たちにぜーーーんぶやらせて自分はノータッチ。人件費をかけずに宿に「フレンドリーなスタッフ」を置いて、予約サイトの評価も上げる方法。あぁ、なんて賢い経営方法。なんて頭がいいオーナーなんでしょう!(涙)
そんなことなんか知らずにボランティアスタッフになってしまった私は、毎日そのブラックオーナーから、スマホのアプリ(日本のLINEみたいなやつ)を通して指令を受けて働かさるハメになりましたよ、遠隔操作されて!
「今日は満室だけど、あと4人の客の予約を入れたから。キミたちの6人部屋に、エキストラベッドを4台つっこんで、10人部屋にしてくれるかな? やればできるから。……客から苦情? 来ない、来ない。うちに来る客は平均1、2泊だからみんな観光に忙しくてそんなヒマないんだよ、ありがたいことに。夏の間に稼いでおかないとさー」
あー、思い出しても腹がたつ。客とスタッフの合計10人で1つのトイレとシャワーを争う現場の不便さなんて、みじんも考えない男!
しかもこの男、ガツガツ客を入れたがるくせに差別主義者だから、自分が気に入らない国籍の客だけはとことん排除するの。その国の客が飛び込みでやって来ると、私たちに「満室です」とウソまでつかせて断る徹底ぶり。客よりもスタッフよりも、とにかく自分だけが大事! 

「使用済みのシーツのニオイをかげ!」の命令はもちろん無視!


そんなワースト宿で得たものって……?

「こんなところでやってられるか!」
私と相棒のドイツ人女子(21歳)は、毎晩マンションの屋上にワインを持て行って飲み、ウサを晴らしていたのでした。幸い、イタリアのワインはものすごくうまい。そして星空を見上げながらの彼女とのお喋りは、もんのすごく楽しかった。
「トモコ、あたし、こんなひどい男を助けるボランティアなんかもうごめんだわ。差別主義者でセクハラでど厚顔、どスケべ、どケチ。どぶネズミよりひどいわ。どぶに落ちた腐ったパルマハム! トイレに落ちたジェラート!」
「あはは、スッキリするね。犬がナメ回したパルメジャーノの外皮を、あいつのパスタに入れてやろっか!」
「いいわね、とにかく一回、あいつの顔に便所サンダルを投げて出ていきましょうよ!」
「うん、使用済みシーツを使い回してることも客にバラして出ていこうぜ。ざまあみろ、極悪エロガッパめ! あばよ、イタリアの脱法ハウス、ヴァッファンクーロ!(イタリア語のスラングで“バカ野郎”)」
「イェーーイ、カンパーーイ♪」
こんな珍体験を共有した彼女とは、2年たった今も近況を報告しあう仲だから、あんな宿でも、行かなければよかったとは思わない。

この体験から学んだこと。
【ハズレ宿に当たってしまった時の対処法】→ 楽しい仲間を見つけて一緒に笑い飛ばす。がまんしない、がんばらない。次を見つけてすみやかに撤収!
どんなひどい場所にも、逃げ道とかオアシスはあると信じている。信じることで、宿運も旅運もアップ、アップ⁉ 世界じゅうのステキな宿が私を、アナタを、待っている! さぁ、次はどこの町へ行ってみようか。みなさんもステキな宿を見つけて、よい旅をね♪

もりともこ『マンマ・ミーア! スペイン・イタリア・モロッコ安宿巡礼記』

家なし、金なし、男なし。人生落ち気味の中年ライター、母の死を機に”住み込み暮らし”の旅に出る。劣悪すぎる環境にブチ切れながらも、ともに過ごした相棒は生涯の友に。気づけば悩みも吹っ切れた!情熱的な女だらけのスペイン巡礼宿から、時給100円のモロッコ安ホテル、果てはスラング飛び交うナポリの宿まで。前向き度120%旅エッセイ。

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