1月に発売された『古生物のしたたかな生き方』は、古生物の進化と絶滅の物語に、現代の私たちが生きるうえでのサバイバル術を学ぶ本。そう、生きるヒントは、自然界のなかにもたくさんあります。人生がつらくなったときにすがりたくなる生物の知恵を過去記事より厳選してご紹介します。まずは、過酷な環境で生きながらも、おしゃれな名前をたくさん持つ深海魚の生きざま。どう解釈するかは人それぞれです!
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こんにちは。深海の生き物大好き人間の平井です。略して、生井です。
我に返ってみれば、もう11月ですね。
日本は秋です。紅葉の季節です。海の中には、僕たち人が感じるような季節というものは存在しているのでしょうか。潮の流れで感じるものなのでしょうか。海に生息している植物にも、紅葉するという現象は起きたりするものなのでしょうか。答えは海の生き物に聞いてみないことにはわかりません。もしくはネットで調べるか、ですね。
今回紹介したい深海の生き物は、上記の前置きと全く関係ない深海魚です。
ただ、あらゆる前置きなど弾き飛ばすほど、おしゃれネームな持ち主です。正直、魚に興味のない人も、この方の名前を一度は聞いたことがあるはず。
それでは、ご登場願います! リュウグウノツカイ様! リュウグウノツカイ様~!
リュウグウノツカイ!
もしも病院の待合室で、この名前が呼ばれたら誰もがその顔を見たくなること受け合いです。リュウグウノツカイなんとまあ、優美で雅で高貴なお名前なのでしょうか。
名前の由来はやはり昔話『浦島太郎』の乙姫様が住まうお城「竜宮」から取ったと思われますが、定かではないとのことです。その竜宮からの使いだからリュウグウノツカイ。とってもおしゃれな名前だと思います。
リュウグウノツカイは和名なのですが、ヨーロッパではその王冠を被ったような姿から「King of Herrings」(ニシンの王)、中国では皇帝魚などとも呼ばれているそうです。どちらもかっこいい名前です。
ただ英名では「Oarfish」(オールフィッシュ)と呼ばれています。このオールは船のオール、つまり櫂のことです。大きめの頭から、尾に向かってだんだんと細くなっていってるのが、由来だそうです。いや、他にも特徴あるだろ~っと思わずにはいられません。
リュウグウノツカイの体長は、だいたい3メートルほど、過去には11メートルのものを発見した記録も残されているそうです。11メートルは長い。
長いのですが、縦にはとても平たい魚です。一番目がいくところは、やはり冠のところだと思います。これは実は部位としては背ビレでして、最初の数本から10本が特に長いため、鶏のトサカのようになっているのです。同じく、口の下辺りに生えているネクタイのようなものは胸ビレです。
このリュウグウノツカイの独特な特徴として「ピンチの時に尻尾を切る」のだそうです。
トカゲの自切(じせつ)と似たような行動です。敵に襲われた時に尻尾を切り離して逃げる他に、栄養が不足した時は消費エネルギーを減らすために尻尾を切ることもあるそうです。こうでもしないと、深海という過酷な環境で生きていけないということでしょうか。文字通り、身を削っています。
このリュウグウノツカイを調べていくと、個人的に興味惹かれたニュースを発見しました。
2014年1月に兵庫県豊岡市にリュウグウノツカイの個体が漂着したというニュースです。ここは僕の物凄く故郷なんです。何が物凄いのかはわかりませんが。
この珍しい深海魚リュウグウノツカイが漂着しただけでも驚きなのですが、さらに驚いたのが、市内の環境省の学習施設の職員らが解剖調査を行い、後に調理して食べたそうです。
……食べたの!? まあ、これは飽くなき研究者の探求なのでしょう。
そして、この職員たちは食べた感想として、身に臭みや癖がないことや、食感が鶏卵の白身のようであること、内臓の部位によっては味が濃厚であると報告したそうです。
あ、美味しいんだ……。
さらにリュウグウノツカイニュースを追っていくと、長崎県で、とある漁師が生きたリュウグウノツカイを銛で突き、新鮮なうちに食べたニュースを見つけました。その漁師の食べた感想が以下です。
「刺身で食べたらゼラチン質がプリプリして、甘みがいっぱい。まるでエビの刺身」
そして、鍋でも食べたそうです。その感想が以下です。
「身が甘くてツルッとした口触りで柔らかく、鍋一杯がアッという間になくなるほど好評だった」
そんなに美味しいんだと思うと同時に、食レポうまいな、と思いました。こんなに的確なコメント、グルメ番組できっと重宝されることでしょう。
こんなにも僕らの胸をざわつかせてくれる深海魚はなかなかいないでしょう。最後に、リュウグウノツカイへ、僕から勝手にメッセージ。
リュウグウノツカイ、ニシンの王、皇帝魚、オールフィッシュ。
様々なおしゃれな名前で呼ばれているけど、名前なんて気にしないで、自分らしく生きてね。あなたはあなたなんだから。
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