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オオカミ少女に気をつけろ!

2019.10.31 公開 ポスト

「傷ついた」と言って他人を攻撃する人たち泉美木蘭

言われてみれば確かに私も……伝染した“被害”

以前働いていた飲食店でこんなことがあった。店にはイケメンのおじさま店長がいて、人柄も明るくスタッフたちから好かれていたのだが、ある日、女子大生A子が先輩女性スタッフに「実は私、店長から暴力を受けたんです」と打ち明けたことで事件がはじまった。

A子いわく、2人で閉店作業をしている最中に、ふとしたことで口論になり、激高した店長からいきなり平手打ちされたというのだ。店長はイライラしている様子だったという。ぽろぽろと涙をこぼして身体を震わせるA子の姿に、女性スタッフたちは騒然となり、たちまちこの話は全スタッフに広まった。

A子は、私にも被害を訴えるメールを送ってきた。平手打ちされた記憶がよみがえり、店長にはもちろん会いたくもないので、しばらくシフトを変わって欲しいという。私は先輩らしく、A子に「店長許せないよね! 絶対に味方だから安心してね!」などと言葉をかけた。

するとA子からは、実は暴力は今回だけではなく、性行為を無理強いされたことまであるというメールが届いた。あまりの話に絶句していると、女性スタッフB美から電話があり、A子の証言に基づく、店長の悪逆非道について喧々諤々と話すことになった。B美は「明日から店に行くな」と言う。

「聞いた? A子、自宅までついて来られたりもしてたんだって! ストーカーだよね。あり得ない。全員で店を辞めよう。あんな男、もう信用できない。別の姉妹店に雇ってもらおうよ」

A子のために賛同したいのはやまやまだが、私は時給も良かったし、姉妹店と言っても全員雇われるわけもなかろうと、言葉を濁した。B美は、「それならこの暴力問題を会社の上層部に報告するのはどうか」と言う。まあそれなら、店長が首になるなり、別の店長と交代になるなり、とにかく私は今まで通りの条件で働けるからいいと思って賛成した。ほかにも私と同じ意見の人が多かったようだ。

この時点で、全員がA子の証言しか聞いておらず、誰ひとり店長の釈明を聞いた者はいなかったのだが、全スタッフがA子側について、「店長は悪人!」=「上層部へ突き出すべし!」と行進していった。

「私も少し体を触られたことがある気がする」「忙しい時間帯になると、口調が荒々しくて怖いと思っていた」など、各々が店長に対する印象を述べ、私も「そう言えば、顔に険があるような気がする」などと言っていた。

そして後日、管理職の人間がやってきて、二人への事情聴取が行われることになった。ところが、明らかになったのは、うんざりするような真実だった。

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オオカミ少女に気をつけろ!

嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。

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泉美木蘭

昭和52年三重県生まれ、作家、ライター。日々、愛しさと切なさと後ろめたさに苛まれている不道徳者。社交的と思わせて人見知り。日頃はシャッターをおろして新聞受けから世間を覗いている。趣味は合気道、ラテンDJ、三浦大知。

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