◆代議制民主主義とはエリートによる占領政治
上野 そういう一般化、普遍化って、哲学者の宿命だよねぇ(笑)。企業の比喩はやめましょう。企業の比喩をするとしたら、主権者に当たるのは株主で、議会にあたるのが株主総会ですからね。株式会社なら株主が会社を見放せば終わりです。だから、主権者にチェック機能はあるんです。それに企業っていうのは、決して民主的な組織じゃなくて、縦型の組織です。経営者に裁量権があるのは、株主が経営権を委ねてるから。それはそれでいい。
私が「う~ん」と言ったのはね、主権は立法権でいいんです。ただ立法権の行使が、代議制民主主義であることが問題。私、國分さんが団塊ジュニアであるということを聞いたとたんに、40年前の記憶がむらむらっと甦ってきた。われわれの世代は、代議制民主主義のことをなんて言ってたか。「ポツダム民主主義」(注:ポツダム条約によってアメリカに押しつけられた代議制民主主義)と呼んで、粉砕する対象だったんですよ(笑)。
國分 知ってますよ(笑)。
上野 親御さんがそういう話をなさいましたか。なぜ粉砕しなければならないかというと、民主主義にはいくつも種類があるけれど、代議制民主主義は、なかでも相当たちの悪いものの1つだからです。
國分 そうですね。ただ、難しいのは、そういう批判を20世紀初頭にやったために最悪の結末になったことです。批判した結果、ファシズムとか全体主義が台頭した。そのせいで今度は民主主義をなかなか批判できなくなってしまったという経緯がありますね。だからこそ、民主主義の現状を批判しつつ、新しい民主主義を考えるっていうのが、僕のなかでは課題だったわけです。
上野 本のタイトルが『来るべき民主主義』で、まだ来てないっていう意味ですからね。今の民主主義は、民主主義と呼べるようなものではないとおっしゃりたいんだと思います。今の民主主義のもとで、立法府が行政府に対して何の機能も果たしていないっていうのは、事実上そうなんですが(注:議院内閣制のもとでは多数与党が内閣を組織するために、議会は政府の提案を追認するだけの場になりやすい)、法的には行政権力をコントロールできないわけではないので、その点は見解が異なりますが。
「民主主義はお好きですか?」と聞かれて、「少なくとも代議制民主主義は好きではありません。好きではないどころか、キライです」と言うしかないのはなぜか。代議制民主主義とは何かっていうことを、目からうろこが落ちるくらいわかりやすく説明してくれた若い政治学者に山崎望君という人がいます。彼いわく、代議制民主主義では、「代議士」が生まれる。私たちの代表ですよね。私たちはそれを選ぶために、投票に行けと言われる。そのことを山崎君はどう表現しているかというと、「投票によって意思決定権を代表に託すことで選良政治の一種であり、エリート政治であることで、背後には衆愚への警戒心があり、政治参加を4年に1回の投票に限定することで、市民の政治参加を、促進するよりはむしろ抑制する意思決定のシステム」だと。超わかりやすいと思いません?
國分 僕も授業でそういう話をしています。今の民主主義って、要するに貴族制なんですよね。
上野 はい、そうです。
國分 古典的な分け方で言ったら事実上の貴族制で、しかもほんとに貴族みたいに三世議員まで出てきちゃってる。
上野 世襲になりましたもんね。
國分 だから、それをもとに民主主義を考えちゃダメですよね。
*この連載は全4回です。次回掲載は2月3日(月)の予定です。