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上野千鶴子×國分功一郎対談「上野先生、民主主義はお好きですか?」

2014.01.31 公開 ポスト

第1回

民主主義についてよく語られる時代は民主主義危機の時代上野千鶴子/國分功一郎

◆代議制民主主義とはエリートによる占領政治

上野 そういう一般化、普遍化って、哲学者の宿命だよねぇ(笑)。企業の比喩はやめましょう。企業の比喩をするとしたら、主権者に当たるのは株主で、議会にあたるのが株主総会ですからね。株式会社なら株主が会社を見放せば終わりです。だから、主権者にチェック機能はあるんです。それに企業っていうのは、決して民主的な組織じゃなくて、縦型の組織です。経営者に裁量権があるのは、株主が経営権を委ねてるから。それはそれでいい。

   私が「う~ん」と言ったのはね、主権は立法権でいいんです。ただ立法権の行使が、代議制民主主義であることが問題。私、國分さんが団塊ジュニアであるということを聞いたとたんに、40年前の記憶がむらむらっと甦ってきた。われわれの世代は、代議制民主主義のことをなんて言ってたか。「ポツダム民主主義」(注:ポツダム条約によってアメリカに押しつけられた代議制民主主義)と呼んで、粉砕する対象だったんですよ(笑)。

國分 知ってますよ(笑)。

上野 親御さんがそういう話をなさいましたか。なぜ粉砕しなければならないかというと、民主主義にはいくつも種類があるけれど、代議制民主主義は、なかでも相当たちの悪いものの1つだからです。

國分 そうですね。ただ、難しいのは、そういう批判を20世紀初頭にやったために最悪の結末になったことです。批判した結果、ファシズムとか全体主義が台頭した。そのせいで今度は民主主義をなかなか批判できなくなってしまったという経緯がありますね。だからこそ、民主主義の現状を批判しつつ、新しい民主主義を考えるっていうのが、僕のなかでは課題だったわけです。

上野 本のタイトルが『来るべき民主主義』で、まだ来てないっていう意味ですからね。今の民主主義は、民主主義と呼べるようなものではないとおっしゃりたいんだと思います。今の民主主義のもとで、立法府が行政府に対して何の機能も果たしていないっていうのは、事実上そうなんですが(注:議院内閣制のもとでは多数与党が内閣を組織するために、議会は政府の提案を追認するだけの場になりやすい)、法的には行政権力をコントロールできないわけではないので、その点は見解が異なりますが。

上野さんが推薦する『来たるべきデモクラシー』(有信堂高文社)。著者の山崎望さんは國分さんと同じ1974年生まれ。

 「民主主義はお好きですか?」と聞かれて、「少なくとも代議制民主主義は好きではありません。好きではないどころか、キライです」と言うしかないのはなぜか。代議制民主主義とは何かっていうことを、目からうろこが落ちるくらいわかりやすく説明してくれた若い政治学者に山崎望君という人がいます。彼いわく、代議制民主主義では、「代議士」が生まれる。私たちの代表ですよね。私たちはそれを選ぶために、投票に行けと言われる。そのことを山崎君はどう表現しているかというと、「投票によって意思決定権を代表に託すことで選良政治の一種であり、エリート政治であることで、背後には衆愚への警戒心があり、政治参加を4年に1回の投票に限定することで、市民の政治参加を、促進するよりはむしろ抑制する意思決定のシステム」だと。超わかりやすいと思いません?

國分 僕も授業でそういう話をしています。今の民主主義って、要するに貴族制なんですよね。

上野 はい、そうです。

國分 古典的な分け方で言ったら事実上の貴族制で、しかもほんとに貴族みたいに三世議員まで出てきちゃってる。

上野 世襲になりましたもんね。

國分 だから、それをもとに民主主義を考えちゃダメですよね。

 

*この連載は全4回です。次回掲載は2月3日(月)の予定です。

 

 

 

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上野千鶴子

社会学者・立命館大学特別招聘教授・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了、平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2011年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門は女性学、ジェンダー研究。『上野千鶴子が文学を社会学する』、『差異の政治学』、『おひとりさまの老後』、『女ぎらい』、『不惑のフェミニズム』、『ケアの社会学』、『女たちのサバイバル作戦』、『上野千鶴子の選憲論』、『発情装置 新版』、『上野千鶴子のサバイバル語録』など著書多数。

國分功一郎

1974年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・教養学部准教授。専門は哲学・現代思想。著書に『スピノザの方法』(みすず書房)、『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社、第2回紀伊國屋じんぶん大賞受賞、増補新版:太田出版)、『ドゥルーズの哲学原理』(岩波現代全書)、『来るべき民主主義』(幻冬舎新書)、『近代政治哲学』(ちくま新書)、『中動態の世界』(医学書院、第16回小林秀雄賞受賞)、『原子力時代における哲学』(晶文社)、『はじめてのスピノザ』(講談社現代新書)など。訳書に、ジャック・デリダ『マルクスと息子たち』(岩波書店)、ジル・ドゥルーズ『カントの批判哲学』(ちくま学芸文庫)など。

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