◆私たちは行政権力の横暴に直面している
上野 都議会も市議会も何の役にも立たなかったと。となると、次は行政府の長を相手にすることになりますね。たとえ都の計画でも、地元自治体の同意がいるので、市長にうんと言わせないという手はある。原発立地と同じでね。これはどうでしたか。
國分 市長という人はですね、ちなみに社会民主連合時代の菅直人の議員秘書をやっていた人です。
上野 菅直人は市民運動から政治の道に入った人ですね。
國分 そうなんですよ。だから革新系と言われているんですけど、いちばん話を聞いてくれませんでしたね。僕が仲間に入る前も、話を聞きに行っても会ってくれないことがほとんどだったようです。
上野 一市民には会わないでしょう(笑)。それにしても、40数年間も寝ていた子を起こしたのは、何か理由があるんですか?
國分 僕らも、それについてはすごく調べたんです。悪者探しもしてみたんですけど、非常に不思議なことに、わからない。暫定的な答えとしては、たぶん石原慎太郎前都知事。石原都政のときに計画が復活して道路をつくれ、みたいな話になったんじゃないか。結局、今でも真相はわかっていません。
上野 石原は都庁を去りました。その後継政権の猪瀬都知事は……ほんとは道路をつくるなっていうほうの人なんだけどね(笑)。
國分 そのはずですよね(笑)。
上野 あとは、行政府の長である小平市長をリコールするという手がありますね。
國分 そうですね。リコールに関してはいろんな考えがあると思うし、運動をしている他のメンバーがどう考えてるかわからないけれど、僕はあんまり積極的になれなかった。つまり、「この人はこんなにひどいんだ」という運動をしてリコールするっていうほうには、向かなかった。そうじゃない手段、つまり道路建設を直接止める方策を考えましたね。
上野 國分さんのご指摘のとおり、問題は、行政権力が非常に過大だっていうことだと思うんです。自治体なら首長、国なら政府と官僚。行政の裁量権がむちゃくちゃ大きくて、いろんなことを勝手に決めている。私たちは今、行政権力の横暴に直面しています。でも、行政権力の長を覆すという方法がないわけじゃない。そちらは考えなかったということですね。
國分 そうですね。そうすると、先ほど上野さんがおっしゃったように、住民投票がまさしく最後の手段だったんです。
上野 ほんとはもう一つ最後の手段があります。それが訴訟。ただ日本の司法がねぇ、困ったことに時間がかかるだけでなく、当てにならないんですけど。
國分 裁判は起こしています。住民投票の結果を開票しろっていう訴訟はもう始まっていて、あともう一つ、道路建設を止めろっていう訴訟も間もなく始まるようです。裁判闘争も大切なんですが、非常に限られたところで行われるものなので、社会問題として広めていく手段としてはどうなのかっていう気持ちが、僕にはちょっとあるんですが。
上野 時間もかかりすぎる。
國分 そうなんです。ヨーロッパだと、裁判が起きたら公共工事は止まるんですけど、日本は止まらないですね。
上野 諫早の水門を開けるのを止めさせたみたいに、行政差し止め請求訴訟もあります。
國分 そういうことも、考えなきゃいけないでしょうね。
上野 とにかくありとあらゆる手段を使って、市民的な闘いをやったんだけど、壁は厚かった、と。
行政権力は、国政以上にとりわけ地方自治体で強いんですよ。その典型が、大阪市長の橋下さん。彼は「自分は有権者の付託を受けて行政府の長に信任されたんだから、何をやってもいいんだ。僕の言うことを聞かないのは、有権者の意思に従わないということだ」と言ったそうだけど、安倍さんも同じような発言をしましたね。
國分 同じ考えなんでしょう。政治というのは、最初にどんな法律をつくるかとか、どんな決定を下すかっていうことも大切ですけど、実際には法律がどう運用されるかが大切で、その過程に絶えず関わっていくというかたちでしか、民主主義はないと思う。彼らはそういうことをまったく理解していないということなんでしょうね。
上野 行政の裁量権が大きいのはしかたのない面もある。何をどうするかって細かいことを、いちいち立法府に諮(はか)っていられない。現場の裁量に任せないと、事が回らないという事情はある。でも最終的にチェック機能を持っているのは立法府だから、立法府には、その気になれば、絶対にやらせないことができる。だから議員1人ひとりにプレッシャーをかけて、踏み絵を踏ませるとか。
國分 たとえばどういう絵を踏ませるんですか。
上野 「特定秘密保護法案に賛成したら、お前の次の当選はないぞ」とか。
國分 それを小平市議会でやるっていうことは、なかなか(笑)。
上野 そうですね。議員選挙はシングルイシューで決まらないのね、困ったことに。
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