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ダースレイダー自伝NO拘束

2019.11.11 公開 ポスト

33歳での脳梗塞は最初、急性アルコール中毒と勘違いされたダースレイダー(ラッパー・トラックメイカー)

11月14日(木)19:30~渋谷ロフト9で開催される幻冬舎plusフェス「日本の難点2019 ~天皇制から性愛まで総まくり!~」
登壇者のお一人、ダースレイダーさんは、派手な眼帯がトレードマークの片目のラッパー。それは2010年、33歳のときに脳梗塞で倒れ、合併症の糖尿病により失明したことに始まります。

14日までにダースさんのことをより知っていただくために、ライブ会場で倒れ、その後の激動の日々を綴った『ダースレイダー自伝NO拘束』の一部を抜粋してお届けします。3回目は、病院に運ばれたところからです。

*   *   *

車が夜の病院に着く。どこだかはわからない。守衛さんにAPOさんが事情を説明して車を通してもらう。 救急入り口に車が着くと車椅子が用意されていて、担ぎ上げられて乗せられた。人生初の車椅子。そんな ワクワク感は無かったけど。当たり前か。 

APOさんはまたパーティー会場に戻り、ラン君が付き添ってくれた。 「トイレで倒れたんです。でも原因が分からないんです。お酒の飲みすぎかもしれません」ラン君が看護士 に説明する。違うんだ。酒は飲んでないんだ。と言いたかったけど出来ない。 「吐き気がするんですね? 吐き気止めを用意しましょう」それはナイスアイディアだ。吐き気さえ止めて くれればきっと話せる。

「ご家族や友人の方には連絡しましたか?」 そうだ。でもラン君はそこまでは僕のコトを知らない。携帯 電話を探そうと思ったけど、うまく動けない。 後で分かったことだけど、何人か知り合いには連絡してくれていた。で、僕は酒が弱い、倒れるような飲 み方をしているのは見たことが無い、といった返事はあったみたいだ。 突然のことでラン君にも大変な思いをさせてしまった。看護士に酒が原因では無いことだけは伝えたかっ たんだけど、その簡単な一言が口を出ない。言わなきゃ! 言わなきゃ! と言う気持ちだったんだけど。 吐き気止めと栄養の点滴が用意され、投与された。落ち着くのかな? 

吐き気止めが効いたのか、気づいたら眠っていた。 

起きたら違う部屋のベッドにいた。やはり、吐き気は落ち着いてなかった。 ゲーゲーしてると看護士が「ここに吐いて!」 と台所の三角コーナーみたいなプラスチックの容器を差 し出した。この後三週間、この容器は片時も離すことが無い生活必需品になってしまうのだが、この時はと 
にかく抱え込んでゲーゲー。 

医者らしき男性が寄ってきた。

「ご気分はどうですか? 急性アルコール中毒と聞きましたが、どうやらアルコールは検出されませんでした。どうします? いったん退院しますか?」 

退院。そうか入院したんだ。でも吐き気は全く落ち着かず。頭がグワングワン揺れるのも全く変わってい ない。冗談じゃない。これで退院しちゃったらヤバイぞ。薬のせいか、少しはしゃべれそうな気がしたので 思い切って口を開いてみる。吐き気がやって来る。 でも、我慢出来ないレベルじゃない。言葉を文字通り吐き出した。 

「酒は......一滴も飲んでいません」 

医者の表情は一変し、看護士に慌てて指示が出された。 この時、しゃべれるのが分かったので、妻に連絡してもらおうと思った。携帯を取り出し、看護士に頼んだ ......無理だった。メールを確認する元気は無かった。 これも後で分かるが......全く何を言ってるのか分からなかったらしく、妻にも連絡は行ってなかった。こ の後丸一日はそれを知らず、なんで妻は病院に来ないんだろう? とヤキモキしながら過ごすことになって しまう。 吐き気は続き、頭は回る。 

なにやら仰々しい部屋に連れて行かれ、機械の中に寝ながら頭を突っ込まされた。気持ち悪さに拍車がか かり、間近に降りてくるでかい医療器具の圧迫感が本当にイヤな感じだ。 どれくらいの時間か分からないけど、長く、長く、永遠に終わらないかと思った。外に出してもらったと きにはホッとしたんだけど、同時に溢れ出すように吐いてしまった。 グッタリとしたまま車椅子に乗せてもらい、病室に戻された。点滴ひとつ取っても初体験。全く何が何だ かわからない状況の中で吐き気と頭が回る感覚だけは続く。凄く疲れる。 ベッドに乗せられると気を失うようにして眠ってしまった。 

意識が戻ると、目の前にはさっきとは別の医者らしき男性がいた。 眼鏡をした人の良さそうな人物だ。僕の意識が戻ったのを確かめると、横にしゃがみこんだ。 こんにちわ~。脳神経外科のNと言います。和田さん、大変でしたね。気持ち悪いでしょ~。先ほど調べまして~、いまの~状況が~少し分かりました~」 すごく特徴的な訛りだ。どこの人なんだろう? ただ、訛りのトーンは人を落ち着かせるムードがあった。 朴訥としたムード。 
しゃべろうとするとまだ気持ち悪かったので、うなずく。 

「和田さん、びっくりするかもしれませんが~。それでも最悪の事態はまぬがれたと思います。ゆっくり~ しっかり~やれば良くなります」

意識はしっかりしているんだけど、動揺もしていた。僕はどうなってしまったんだろう? でも、うなずく。 

「和田さんが倒れたのは~脳梗塞なんです」 六月二十三日早朝、世界が回った。 

イベント情報

宮台真司、鈴木涼美、ダースレイダー 出演『日本の難点2019 ~天皇制から性愛まで総まくり!~』

2019年11月14日(木)開催
OPEN 18:30/START 19:30
前売¥2,500/当日¥3,000(税込・要1オーダー500円以上)
会場:Loft9 Shibuya(東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 1F)

ダースレイダー『ダースレイダー自伝NO拘束』

超ド派手な病人現る!? 余命5年を宣告された片目のラッパー、大いに吠える! 東大中退という異色のキャリアを持つHIPHOPミュージシャンの 
ダースレイダー(DARTHREIDER a.k.a. Rei Wordup) MC、ラッパー、トラックメイカーとして活躍する彼は、2010年に脳梗塞を経験。 左目の視力を失い、余命5年を宣告された彼は何を思い、何を語るのか。 ライブ会場で倒れて以降の激動の日々、リハビリを経てステージに 上がるまでの血の滲む思い、孤独な闘病の日々を綴ったリアルな体験が、 生い立ちからの半生と共に赤裸々に語られる。

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ダースレイダー自伝NO拘束

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ダースレイダー ラッパー・トラックメイカー

1977年4⽉11⽇パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、浪⼈の時期に⽬覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビューを果たし、注⽬を集める。⾃⾝のMCバトルの⼤会主催や講演の他に、⽇本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設⽴など、若⼿ラッパーの育成にも尽⼒する。2010年6⽉、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左⽬を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な分野で活躍。著書に『『ダースレイダー自伝NO拘束』がある。

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