前回の記事:民主主義についてよく語られる時代は民主主義危機の時代
◆「議会の壁」は「バカの壁」?
國分 上野さん、今度は僕に「民主主義はお好きですか?」と、聞いてもらえますか(会場、笑)。
上野 はい。「功一郎さん、民主主義はお好きですか?」
國分 僕もイエス&ノーですね。
上野 そうですよね。
國分 やっぱりほんとに嫌になることがあります。とくに、今度のことで痛感したのは議会の壁です。議会にはつくづく悩まされた。市議会議員の1人ひとりと話すとけっこういいこと言うんですね。なんだかんだいって政治家を目指した以上、それなりに志もあったんでしょうし。
でも、とにかく党派の党議拘束が強くて、どんなに議論しても意味がない。ものすごい無力感がありました。
上野 議会が自分で自分の首を絞めていますね。質問は全部事前に出して、時間制限して、追加の質問を認めないとか、さっきおっしゃった都の説明会と同じようなルールを自らに課して、バカじゃないかと思います。1人ひとりはいい人なんだけど、束になると……。
國分 束になると何の存在感もない。単なる駒になってしまう。
上野 代議制民主主義とは、間接民主主義でもあります。これに対して直接民主主義に比較的近いのが首長選挙。そのために市長と議会の主張が異なって、ねじれるケースがあります。その意味での「ねじれ」が絶対に起きないようになってるのが議院内閣制。国政では議会における与党の長が総理大臣になるので、ねじれが起きない。小平市の場合は、そのねじれもなかったんですね。
國分 ねじれはない。その緊張感のなさは、ちょっとびっくりするほどです。
上野 私はポツダム民主主義というものに極めて深い疑念を持っていたから、支持政党なしなんです。私を満足させる政党なぞこの世にない。
國分 それは非常に難しそうですね(笑)。
上野 私はかなり長期にわたって、投票に行きませんでした。代議制民主主義を信じるには、あまりにラディカルだったので(笑)。でも年とともに改良主義者になって、最近はちゃんと選挙に行くようになりました。そういう人間がほかの人たちに、「選挙行った?」と聞くのはほとんど偽善に近い(笑)。だから、若い人たちに「投票に行け」とは言いません。
それにロビー活動(注:議員ひとりひとりに影響力を行使する働きかけ)も、やらなかったわけではないんだけど、非常に無力感に陥るんですよね。やっぱり代議制民主主義っていうものに対する根本的な不信感があるから。その点は國分さんとも一致すると思います。
小平市で今回使われたのは、住民投票という直接民主主義の手法ですね。
國分 はい。ただ、一つ付け加えると、「直接民主主義」という言い方でいいのかどうか僕はちょっと疑問があります。そもそも「直接民主主義」という言葉はいろいろ誤解があるし、指示内容もはっきりしないので、僕自身はあまり使わないようにしているんです。よく学生から、「ほんとは直接民主主義がいいけど、それはできないから次善の策として間接民主制を採っている」みたいなことを言われるんですけど、いったい誰がそんなことを言ったのだろうか(たとえばカントは明確にこういう考えを否定しています)。代表制という仕組みは避けられないものですし。
上野 確かに住民投票だって多数の専制ですからね。これを直接民主主義と呼んでいいのかどうか。直接・間接とは別の民主主義もありうると私は思うんですが、その話はあとでしましょう。
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