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プロ野球怪物伝

2020.02.19 公開 ポスト

野村監督が語る田中将大 もはや気安く「マー君」などとは呼べない【再掲】野村克也

野村克也さんの選手評は、いつも冷静で的確で、なにより野球と選手への愛がにじみ出ていました。心よりご冥福をお祈りします。

野村さんの著書『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)では、教え子である田中将大、「難攻不落」と評するダルビッシュ有から、ライバルだった王貞治、長嶋茂雄ら昭和の名選手まで、名将ノムさんが嫉妬する38人の「怪物」を徹底分析しています。

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記憶に残るダルビッシュとの投げ合い

その後、田中は楽天のエースとしてローテーションの核となり、順調な成長を見せた。

ピッチャーの安定感は何から生まれるかといえば、私は次の5つだと考えている。

第一に、アウトコース低めに決められる原点能力。第二に、ほしいときにストライクを稼ぐことができる多彩な球種。第三にゴロを打たせる力。第四に、バッターにインコースを意識させること。そして守備とクイックモーションの技術である。

田中はこの要素を着実に身につけていった。ただ、若さゆえ、いつでも全力投球をしていた。どんな状況であっても、どんなバッターに対しても、フルスロットルで立ち向かっていった。それが顕著に出たのが、ダルビッシュと投げ合った2011年7月の日本ハム戦だった。

先取点を許したのはダルビッシュだった。2回にストレートを狙い打ちされ、3安打を集中された。しかし、先に述べた危機察知能力と回避能力に秀でたダルビッシュは、決してストレートの伸びが悪かったわけではないにもかかわらず、ストレートは見せ球にしてインコースを意識させ、カーブとスライダーでカウントを稼いで最後はフォークかスライダーで勝負という組み立てに切り替えた。

対して田中はどうだったか。調子はダルビッシュを上回っていたように私には見えた。しかし、4回に稲葉篤紀に浴びたツーランが命取りとなった。このホームランは、追い込んでからの7球目、真ん中低めに入ったスライダーを運ばれたものだった。その直前に田中はフォークをファウルにされた。それでスライダー勝負という選択になったと思うのだが、ダルビッシュならもう一球ワンバウンドになるくらいのフォークで稲葉を誘ったのではないかと思う。そこにダルビッシュとの差を感じさせたものだった。

しかし、同じ失敗を繰り返さない田中は、次第にこうした投球術を身につけていく。

うまく緩急を織り交ぜるだけでなく、ふだんは140キロ台のストレートとスライダーを使ってできるだけ少ない球数で打たせてとることを覚えた。そして、ここぞというときは、ギアを一段も二段も上げ、150キロの速球とキレのある変化球を投げ込んだ。それが2013年の24勝無敗という、途方もない記録を生み出すことになったと私は思う。

その翌年、ヤンキースに移籍してからも、田中は6年連続2ケタ勝利をあげたように、つねに安定した成績を残し、開幕投手を4度務めるなど、メジャー屈指の名門チームでエースといっても過言ではない存在となっている。もはや私ごときが気安く「マー君」などとは呼べなくなってしまった。

ただ、こんな話を聞いた。田中はヤンキースで背番号19をつけている。私と同じだ。

何か関係があるのか気になっていたのだが、最近知らされたことには、ヤンキースからいくつか番号を提示されたとき、楽天でつけていた18に似ていたことに加え、やはり私の存在を「少なからず意識した」のだという。悪い気はしなかった。

 

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この続きは、『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)で。全国の書店で好評発売中です。

野村克也『プロ野球怪物伝 大谷翔平、田中将大から王・長嶋ら昭和の名選手まで』

攻略法のなかった松井、
史上最高の右バッター落合、
本格派と技巧派、変幻自在のダルビッシュ……
私が嫉妬する、38人の"常識はずれ"な男たち。

王貞治、長嶋茂雄ら昭和の名選手から、大谷翔平、ダルビッシュ有、佐々木朗希ら新世代のスターまで、名将ノムさんが38人の“怪物”たちを徹底分析!


 

【本書でとりあげる怪物たち】
●大谷翔平……最多勝とホームラン王、両方獲れ
●田中将大……もはや気安く「マーくん」などと呼べない存在に
●江夏 豊……「江夏の21球」明暗を分けた佐々木への6球
●清原和博……私の記録を抜くはずだった男
●伊藤智仁……史上最高の高速スライダー。彼のおかげで日本一監督に
●清宮幸太郎……左ピッチャーとインコースを攻略できるか
●佐々木朗希……"163キロ"の豪腕は本物か。令和最初の怪物候補
●イチロー……現役晩年に見られたある変化
●王 貞治……あえて注目したい「四球数」の記録
●長嶋茂雄……ボールをキャッチしようとした瞬間、バットが目の前に
●金田正一……ピッチャーとしては別格、監督としては失格
●稲尾和久……正確無比の制球力でストライクゾーンを広げてみせた
●江川 卓……元祖・怪物。大学で「楽をすること」を覚えたか
●松坂大輔……実は技巧派だった平成の怪物
●ジョー・スタンカ……忘れられない巨人との日本シリーズでの一球
●ランディ・バース……バックスクリーン3連発を可能にした野球頭脳
●柳田悠岐……誰も真似してはいけない、突然変異の現役最高バッター
●山田哲人……名手クレメンテを彷彿とさせる、三拍子揃った新時代の怪物
●山川穂高……大下、中西、門田……歴代ホームラン王の系譜を継ぐ男 ほか全38名

野村克也『野村のイチロー論』

「正直に言う。私はイチローが好きではない。しかし、彼の才能に最初に目をつけたのはこの俺だ」――名将がはじめて書いた、“天才・イチロー vs. 凡人・野村” 究極の野球人間論!

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野村克也

1935年、京都府生まれ。54年、京都府立峰山高校卒業。南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)にテスト生として入団。首位打者1回、本塁打王9回、打点王7回、MVP5回、ベストナイン19回、ダイヤモンドグラブ賞1回などの成績を残す。65年には戦後初の三冠王(史上2人目)にも輝いた。70年、捕手兼任で監督に就任。73年のパ・リーグ優勝に導く。その後ロッテオリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)、西武ライオンズでプレーし、80年、45歳で現役引退。89年、野球殿堂入り。通算成績は3017試合、2901安打、657本塁打、1988打点、打率.277。指導者として、90~98年、ヤクルトスワローズ監督、リーグ優勝4回、日本一3回。99~2001年、阪神タイガース監督。06~09年、東北楽天ゴールデンイーグルス監督。現在は野球評論家。『野村のイチロー論』『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)など著書多数。

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