どんな作家にもデビュー作がある。
それが華々しいときもあれば、静かな船出であることもある。
いずれにせよ、みな、書き出し、書き終え、世に問いたい、と願ったのだ――。
<今回の執筆者>
矢月秀作(やづき・しゅうさく)
一九六四年、兵庫県生まれ。九四年、 『冗舌な死者』でデビュー。二〇一二 年、アクション警察小説「もぐら」シ リーズが文庫化されるとたちまち累計 一〇〇万部を超える大ベストセラーと なる。他に「D1」「リンクス」など の人気シリーズがある。
私の道を決めた作品
デビューはいつかと問われると、いつも頭を悩ませていたのですが、いい機会なのでじっくり考えてみました。
デビューの定義ってなんだ?
文章が金になった時?
初めて小説が掲載された時?
いや、なんか違う。
ああ、デビューってうれしいものだ!
ということで、若い頃、書き物関係でうれしかった記憶はないかと脳みそをかき回してみると、それらしきものを発見しました。
二十七歳の時、私は官能小説誌の編集者をしていました。
〈小説アサヒ〉という老舗の月刊誌で著名な先生方も連載していた雑誌です。まあもう、二十年前に版元ごとなくなった雑誌なので、今の編集さんたちはほぼ知らないでしょうけど、当時、業界の一部では名の知れた小説誌でした。
ほとんどは、雑誌を持たない版元さんと連携して大先生の連載を取っていたのですが、気難しい先生もいて、ちょいちょい原稿を落としてくれました。
そこで私の出番。誌面を埋めるべく、小説の代替原稿を書くのです。
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