今年は令和元年。
即位の礼に大嘗祭にと、大きな儀式が続きました。日本には神社があって、八百万の神様がいて、私たちは何かにつけて「神様」の存在を感じて暮らしているのだよなあと思いました。
さて、ちょうどそんな折、落語家・桂竹千代さんの『落語DE古事記』が先日発売に!
先日、ラジオで春風亭昇太さんが
「古事記の魅力も伝わってくるんだけど、落語のこともたっぷり入ってて、ほんとに面白い!」
と爆笑しながら激賞してくださった本書。
あらためて、本書の「はじめに」を公開します。
神様のこと、ちゃんと知らなくちゃ!
* * *
『古事記』は上中下の3巻セット!「神様の話」は上巻だよ。
ボク、桂竹千代は大学・大学院(修士)で日本古代史・古代文学を専攻していました。
そして落語家になりました。
歴史はロマンに溢れてます。
歴史というものは遡るほどに謎が多いもの。
特に古代は、史料がないから何とでも言えちゃう……ってところがあります。
ヤマトタケルが白鳥になったとか、聖徳太子が10人の訴えを一度に聞き分けたとか、3本足のカラスがいたとか、今だったらあり得ないことが書かれていても、「昔のことだからホントにあったかもしれないなー」と0・0000001%の可能性を、思わず信じてしまうのです。
いや、そもそも現代に生きる我々にとってはでたらめに思えることでも、古代人にとってはそれが現実として受け入れられていたのかもしれません。
さて、日本最古の歴史書と言われるのが『古事記』です。
『古事記』という名前は聞いたことがあっても、具体的にどんなものかと聞かれたら説明できない方も多いことでしょう。
ここには人間以前の歴史、つまり神々の歴史も記されているのが大きな特徴です。
ということで、少しご説明します。
『古事記』は、上・中・下巻の3巻セット。
このうち上巻が神々のお話で、他2巻は天皇中心のお話です。
中巻は、初代の神武天皇(じんむてんのう。3本足のカラス「ヤタガラス」がここで登場。日本サッカー協会のあのマーク)から、15代目の応神天皇(おうじんてんのう。全国にある八幡宮にまつられている八幡神【やはたのかみ】)まで。
下巻が、16代目の仁徳天皇(日本一大きな古墳で、面積的には世界一大きなお墓。祝! 世界遺産)から、33代目の推古天皇(すいこてんのう。日本初の女帝)まで。
つまり中~下巻は人間のお話となります。
本当にこれが「国の歴史書」? ツッコミどころ満載!
こんな風に3巻セットになってるわけですが、一般的な『古事記』のイメージって、この上巻部分のことだと思います。そして、こここそ『古事記』のハイライト、一番面白いところと言ってもよいでしょう(出オチとか言わないで!)。
神々によって天地が作られ、日本列島が作られ、自然が作られ……。
とんでもなく壮大な話です。
で、あの世に行ったり、怪物と闘ったり、自分が生んだ息子殺しちゃったり、ウサギがしゃべったり、ウン○撒き散らしたり、海の中で普通に生活できたり……。
「イヤ何言ってんだよ!」
「んなわけねーだろ!」
ってツッコミどころが盛り沢山です。
これが国の歴史書なの?
ホントにこれでいいの?
って思っちゃう人もたくさんいるでしょう。
とは言っても、実は世界を見ても、神話ってのは奇天烈なものが多いんですよ。
たとえば、ギリシャ神話の最高神・ゼウスは絶倫すぎてガチョウにまで手を出すんですが、その時わざわざ白鳥に化けて口説きます(谷啓もビックリだ! ガチョ~ン)。
絶世の美女と言われるアフロディーテ(ビーナスともいう)は、天の神様の息子が天の神様(つまりお父さん)のチン○を切って海に投げたら生まれます(いや~ん!)。
神話というのは、現代人からしてみれば、はちゃめちゃなことばかり起こります。科学の発達した世の中で、こんなことを真に受けていたら、変人扱いされてしまうでしょう。
「じゃあ、こんなでたらめの歴史は読まなくていいや!」……って思ったそこのあなた! ノンノンノン!!
こんな神話ですが、ボク達の生活の中に今でもしっかりと生きています。
実際、日本にはたくさんの神社がありますね。そこにまつられているのは、ほとんどが『古事記』に登場する神々です。そんなはちゃめちゃな神々を、あなたもパンパンと手を叩いて拝んでいますよね。
こんなに文明が進んだ世の中でも、最後はみんな「神頼み」しているんです。
我々の心の中に、いつだって神はいるのです(何か怪しいセミナーみたいになってきた)。
みなさんは神様のことを何も知らずに拝んでませんか?
日本には八百万(やおよろず)の神様がいると言われています。多神教ですね。キリスト教やイスラム教は一神教で、神様はひとりだけ(「一人」って数えていいかどうかはさておき)。
『広辞苑』によれば、八百万というのは、無数を意味する表現のようです。日本神話にはよく「八」という数字が出てくるんですけど、これは実数としての「8つ」ではなくて、数が多いということも意味します。それでいうと、八百万というのは、すげーいっぱいってことになります。
どこにでも神が宿ります。
山にも海にも木にも石にも神様はいるし、トイレの神様だっている(Ⓒ植村花菜)。
日本ではこうして、ありとあらゆる神様を認めてきたので、過去に外国から仏教が来てもキリスト教が来ても、最終的には受け入れられてきたのでしょう。
結婚したら教会で式あげて。
お葬式ではお経読んで。
初詣は神社で。
……こんな節操がない国は他にないです。これは根底に、八百万の神の思想があるからだったんですね。
そんな身近な神様なのに、みなさんは神様のことを何も知らずに拝んでませんか?
神様だって、いきなり自分のことを知らない人がパンパン手を叩いて「学業成就」なんて願われたら、ビックリしますよ。
そこにまつられてるのが大国主命(オオクニヌシノミコト)さんなら、「おれ、縁結び専門なんだけどー」って言いたいはずです。「風邪っぽいので診てもらえませんか?」って整形外科に行ってるようなものです。
実際、誰かに頼みごとをしに行くときに、相手のことを全く知らずに行ったりはしませんよね? きっと相手のことを調べてから行くはずです。それが礼儀ってものです。
同じように、神社にお願いごとをしに行くのなら、神様のことも知っておくべきだと思います。21世紀の今も、古代の神々は生きているのですから。
「じゃあ神々の歴史を勉強しよう!」と言って早速『古事記』を読もうとしたあなた、かなりの確率で早々に挫折します。神様の名前がひっきりなしに出まくるので(まさに八百万!)、ややこしいのは間違いありません。読み始めでやんなっちゃうでしょう。大学院で古代文学を専門として学んだボクですら、すべての神様の名前は覚えてませんから。
でもご安心ください。主役となる神様はほんの一部です。他はエキストラです(神様ごめんなさい)。
というのも、一度しか登場しない神様がとっても多いんです(混乱しないように、本書では、そういう神様は省いていきます)。
だから、主役となる神様だけを捉えられれば、神々の時代が見えてきます。
日本人としてこんなオモシロイものを知らないともったいないと思ったので、こうして筆を執と りました。
『古事記』を全部解説したら長いです。ただただ神々の名前が羅列されていて、退屈な部分もあります(寿限無【じゅげむ】みたい!)。
なので、『古事記』をすべて読んだボクが、上巻(神々の巻だよ)のオモシロトピックだけを引っこ抜いて、時にはツッコミながらお話しします。ツッコまないと到底理解できない“神様の物語”がそこにあります。
エロもあります。そこは省きません。
落語家という特性を生かして、わかりやすく、楽しんでもらえるように書きました(中には想像の会話もあるし、脱線も多いけど許してね!)。
では早速『古事記』の成立からお話ししましょう。
* * *
ということで、あらためて『落語DE古事記』より、「はじめに」をご紹介しました。
ここできっと、「神様のことちゃんと知らないといけないぞ」と思った方が大勢いるはず!
次回から、本書より、気になる神様の話をピックアップしてご紹介します。
初詣までに、お勉強しましょう!
落語DE古事記
神社に行けば、私たちは神様にありとあらゆることをお願いしますよね。商売繁盛に合格祈願に延命長寿に縁結びに厄除けに……。
でもちょっと待って。こんなに頼りにしてる「神様」のこと、ちゃんと知ってますか?
神様について書いてあるのが「古事記」です。歴史の教科書でも最初の方に出てくるので、「古事記」について聞いたことのない人はいないと思いますが、でも何が書かれているかまで説明できる人って、少ないんじゃないでしょうか。
そこで、大学院まで古代史を専攻していた落語家の桂竹千代さんに、「古事記」を楽しく解説していただくことにしました。
爆笑注意ですから、静かな場所では読まないようにしてくださいね!
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