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プロ野球怪物伝

2020.02.15 公開 ポスト

野村監督が語るイチロー 私の予想のはるか上を行った天才【再掲】野村克也

野村克也さんの選手評は、いつも冷静で的確で、なにより野球と選手への愛がにじみ出ていました。心よりご冥福をお祈りします。

野村さんの著書『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)では、教え子である田中将大、「難攻不落」と評するダルビッシュ有から、ライバルだった王貞治、長嶋茂雄ら昭和の名選手まで、名将ノムさんが嫉妬する38人の「怪物」を徹底分析しています。

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走・攻・守、すべてにおいて超一流

なぜ、イチローは怪物的な記録を残すことができたのか。

ひとことでいえば、天才だからである。

では、彼のどこが天才なのか。

イチローのバッティングからは、配球を読んだり、狙い球を絞ったりしている様子はあまり伝わってこない。すなわち、来た球に反応している。

しかし、並のバッターにそれは不可能だ。ストレートを待っているときに変化球を投げられれば、即座に反応するのは非常に難しい。だから、私のような凡才は、配球を読み、狙い球を絞るのである。つまり、すべてのバッターに共通のテーマである「変化球への対応」を苦もなくやってのける。そこがイチローの天才たる所以なのだ。

イチローはあえてボール球を打ちにいくことさえある。「頭では打てないとわかっていても、身体がひょっとしたら打てるぞと思う」そうだ。だからイチローは言う。

「ぼくにとっては、選球眼より選球体が重要」

目ではなく、身体でストライクかボールか、打てるか打てないかを判断するというわけだ。私にはまったく理解できないが、天才とはそういうものなのだろう。

ただし、実際にヒットにするには卓越した技術が必要だ。左バッターというものは、できるだけ早く一塁方向に踏み出したいという意識がフォームに表れるものだ。イチローも例外ではない。スイングのなかにスタートの意識が見える。そうなると、スイングのステップと走塁の一歩目が一緒になり、ふつうは走り打ちになる。それでは強い打球が打てないばかりか、変化球でタイミングが崩されやすくなる。

しかし、イチローはそうならない。たとえ変化球でタイミングを狂わせられたり、フォームを崩されても、抜群のバットコントロールでヒットにしてしまうのである。

なぜそれが可能なのかといえば、大谷のところでも述べたように、右足のつま先が外側を向かないからだ。だから右肩が開くことなく、バットを合わせることができるのである。

なぜつま先が開かないのか──。「打席でもっとも気をつけていることは何か」とインタビューで聞かれて、イチローはこう答えていた。

「左肩をピッチャーに見せないよう、つねに意識している」

右肩ではなく、左肩というのがイチローらしいなと思うのだが、私なりに解釈すれば、「グリップをできるだけ最後まで残す」という意味になる。左肩を見せないよう意識すれば、必然的にグリップがギリギリまで残り、絶対に右肩が開くことはない。

右足のつま先も外に向くことなく、カベが崩れないというわけである。

イチローの天才ぶりはバッティングにとどまらない。そこがすごい。走・攻・守、すべてにおいて超一流──こんな選手は、イチローをおいてほかにいない。しかもイチローは、メジャーリーグにおいても超一流であることを証明したのである。怪物というしかないだろう。

 

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この続きは、『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)で。全国の書店で好評発売中です。

野村克也『プロ野球怪物伝 大谷翔平、田中将大から王・長嶋ら昭和の名選手まで』

攻略法のなかった松井、
史上最高の右バッター落合、
本格派と技巧派、変幻自在のダルビッシュ……
私が嫉妬する、38人の"常識はずれ"な男たち。

王貞治、長嶋茂雄ら昭和の名選手から、大谷翔平、ダルビッシュ有、佐々木朗希ら新世代のスターまで、名将ノムさんが38人の“怪物”たちを徹底分析!


 

【本書でとりあげる怪物たち】
●大谷翔平……最多勝とホームラン王、両方獲れ
●田中将大……もはや気安く「マーくん」などと呼べない存在に
●江夏 豊……「江夏の21球」明暗を分けた佐々木への6球
●清原和博……私の記録を抜くはずだった男
●伊藤智仁……史上最高の高速スライダー。彼のおかげで日本一監督に
●清宮幸太郎……左ピッチャーとインコースを攻略できるか
●佐々木朗希……"163キロ"の豪腕は本物か。令和最初の怪物候補
●イチロー……現役晩年に見られたある変化
●王 貞治……あえて注目したい「四球数」の記録
●長嶋茂雄……ボールをキャッチしようとした瞬間、バットが目の前に
●金田正一……ピッチャーとしては別格、監督としては失格
●稲尾和久……正確無比の制球力でストライクゾーンを広げてみせた
●江川 卓……元祖・怪物。大学で「楽をすること」を覚えたか
●松坂大輔……実は技巧派だった平成の怪物
●ジョー・スタンカ……忘れられない巨人との日本シリーズでの一球
●ランディ・バース……バックスクリーン3連発を可能にした野球頭脳
●柳田悠岐……誰も真似してはいけない、突然変異の現役最高バッター
●山田哲人……名手クレメンテを彷彿とさせる、三拍子揃った新時代の怪物
●山川穂高……大下、中西、門田……歴代ホームラン王の系譜を継ぐ男 ほか全38名

野村克也『野村のイチロー論』

「正直に言う。私はイチローが好きではない。しかし、彼の才能に最初に目をつけたのはこの俺だ」――名将がはじめて書いた、“天才・イチロー vs. 凡人・野村” 究極の野球人間論!

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野村克也

1935年、京都府生まれ。54年、京都府立峰山高校卒業。南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)にテスト生として入団。首位打者1回、本塁打王9回、打点王7回、MVP5回、ベストナイン19回、ダイヤモンドグラブ賞1回などの成績を残す。65年には戦後初の三冠王(史上2人目)にも輝いた。70年、捕手兼任で監督に就任。73年のパ・リーグ優勝に導く。その後ロッテオリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)、西武ライオンズでプレーし、80年、45歳で現役引退。89年、野球殿堂入り。通算成績は3017試合、2901安打、657本塁打、1988打点、打率.277。指導者として、90~98年、ヤクルトスワローズ監督、リーグ優勝4回、日本一3回。99~2001年、阪神タイガース監督。06~09年、東北楽天ゴールデンイーグルス監督。現在は野球評論家。『野村のイチロー論』『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)など著書多数。

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