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  3. 料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。
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私のうつは一進一退をくり返しつつ、ゆっくりゆっくり回復していった。それでも、朝目が覚めたときは人生に何もいいことがないような気分だし、冷え込んだ日は、朝ご飯を食べて食後の薬を飲むと、「今日は無理」、ともう一度ふとんに潜り込んでしまうこともあった。

はた目にはノロノロ動いているように見えるうつの人が、実は一生懸命体を動かし、フル回転で頭を働かせていることがある。だからすぐに疲れ果てる。そんなわけで、寝たきりの時期が過ぎても、1日の半分寝ている日は多かった。

歩く速度は遅く、何度も休憩しなければならなかったが、自転車に乗れば昔みたいに疾走できた。自慢じゃないが、私は自転車を漕ぐスピードが速い。重たいママチャリを、タイヤが細くて軽いシティサイクルに替えてから、スピードはさらに増していた。歩くのも速かった私は、のろのろとしか歩けなくなったことが歯がゆかったが、自転車ならほかの自転車を追い越してスイスイ走れるので、ちょっとだけ自尊心を取り戻せた。
ある程度活動できるようになると、お気に入りの池がある公園へ散歩するようになった。ベンチに座り、ずーっとアリの動きを目で追う。風にそよぐ木々を眺める。池のきらめきを観続ける。自然に囲まれぼんやりできる公園は、気持ちがよかった。

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阿古真理『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』

36歳、うつ発症。 料理ができなくなった 食文化のジャーナリストが 発見した22のこと。 家庭料理とは何か。 食べるとは何かを見つめた 実体験ノンフィクション。

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料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。

うつ病になったら、料理がまったく出来なくなってしまったー。食をテーマに執筆活動を続ける著者が、闘病生活を経て感じた「料理」の大変さと特異性、そして「料理」によって心が救われていく過程を描いた実体験ノンフィクション。

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阿古真理 作家。生活史研究家。

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部総合文化学科(社会学)を卒業後、広告制作会社を経てフリーに。1999年より東京に拠点を移し、食や生活史、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『うちのご飯の60年 祖母・母・娘の食卓』『昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年』『「和食」って何?』『小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代』『料理は女の義務ですか』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか パンと日本人の150年』『パクチーとアジア飯』『母と娘はなぜ対立するのか 女性をとりまく家族と社会』など。

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