今年もM-1の季節です。
いまや国民的人気のサンドウィッチマンは、2007年のチャンピオン。
敗者復活からの大逆転劇を見せたわけですが、あの日までは、その名を知る人も少なく、焦燥の中にいました。
彼らの青春時代から震災後の近況までを綴った『復活力』(幻冬舎文庫)より、M-1で勝ち上がっていったあの「奇跡の瞬間」を公開します。
* * *
【伊達みきお】
2007年M 1、準決勝で敗退
2007年。『M – 1グランプリ2007』の予選がスタートした。
この年は4239組がエントリーした。出場コンビの数は、年々増えている。今年も過去最多数だったと聞いた。特に、2007年は、プロよりも素人コンビが急増していた。前年アマチュアで初めて決勝進出した『変ホ長調』の存在が大きいだろう。これには正直、複雑な気持ちだった。
プロはみんな、人生と命をかけて真剣に漫才をやってる。普段、別の仕事に就いてるようなアマチュアが決勝に上がって、泣くほど悔しかった。プロとして、アマチュアは決勝の舞台では二度と見たくない。決勝の舞台にアマチュアを上げてしまうようじゃ、プロはダメなんだ。
2007年、サンドウィッチマンは2回戦からのシード参加だった。前年、準決勝に進出したコンビは、無条件で1回戦を免除されるルールになっている。
2回戦はラフォーレ原宿で行われた。ここは順当に勝って、『ルミネtheよしもと』での3回戦に進出。ここまではM – 1出場者専用の携帯サイトに各自アクセスして、合否を確認するシステムになっている。
3回戦も勝って、いよいよルミネでの準決勝に上がった。
2年連続で準決勝に来ていたから、ひとまず今年も面目は保ったなというのが、正直な気持ちだった。
準決勝まで残ったコンビは、さすがに実力も人気もある顔ぶれだった。全員、気合の入れ方が違う。ここで終わるのと決勝に行けるのとでは、天と地ほどの違いがある。前年のチュートリアル、その前のブラックマヨネーズをはじめ、決勝で結果を残したコンビは、全国区の人気タレントへの成功への階段をかけのぼれるんだから。
ルミネでの準決勝は、息のつまるような緊張感の中で行われた。M – 1決勝の番組中では、大井競馬場での敗者復活戦を「緊迫感あふれる戦い」とか「地獄のよう」なんて言葉で表現しているけど、実際は準決勝の方がピリピリしている。ここで勝ち残れるかどうかで、来年以降の仕事の展開が大きく変わるんだから、当たり前だ。
僕らサンドウィッチマンも真剣にネタをやった。M – 1で勝つために、富澤が練りに練った、自信のネタだった。
今年こそ、決勝の舞台に行くぞ! という意気込みは十分だった。
準決勝終了後に、決勝進出者が発表される。POISON GIRL BAND、笑い飯、千鳥、ダイアン……と、有力視されていた実力コンビが次々と読み上げられる。念願の初決勝進出を叶えたダイアンは、ふたりとも涙ぐんでいた。僕らと同じ、並々ならぬ気合と、数年分の悔しい思いが積み重なっていたんだろう。
だけど。
最後の8組目まで……サンドウィッチマンが呼ばれることはなかった。
【富澤たけし】
悔しさと諦めが交錯した準決勝敗退
準決勝戦は、『ルミネtheよしもと』で行われた。
そこまでくると、さすがの面子(メンツ)が揃っていた。会場の空気は、アマチュアコンビも多く混じっていた3回戦までとはうって変わって、かなりピリピリしている。僕らみたいな吉本以外の事務所の芸人にとって、正直、ルミネはやりやすい場所ではない。客はだいたい吉本ファンだし、舞台も楽屋もトイレまでも、吉本専用の「場」という感じで、落ち着けない。まるっきりアウェーの劇場だ。
だけど、こっちも準備は十分にやってきた。
自信をもって、M – 1用につくりあげたネタを繰り広げた。笑いも起きたし、手ごたえも悪くなかった。今年こそ決勝に行ける! とグッと拳を握った。
全組のネタ終了後。準決勝に出場したコンビが集められた。番組関係者が、決勝進出組を読み上げてゆく。
最後の8組目が呼ばれた。
……サンドウィッチマンの名前はなかった。
2007年も、準決勝での敗退が決まった。
悔しかった。本当に。
ちくしょう! と思った。2006年の準決勝敗退よりも、ずっと悔しかった。
2006年のM – 1は、準決勝敗退のとき、悔しさと白けた気持ちが半々だったんだ。
アマチュアの『変ホ長調』が決勝に上がったときに、何だそれ? と、呆(あき)れてしまった。
芸人のどん底暮らしを味わい、客のいないつらい営業をしのいで、真剣に漫才をやってきているプロの芸人たちが、アマチュアコンビに負けたのだ。
しかも2006年の決勝組は、敗者復活の『ライセンス』までを含め、全員吉本の芸人だった。このときはまだM – 1のことをちゃんとわかっていなかったから、これは結局、吉本のイベントなんだって、文句を言う気も起こらなかったんだ。
M – 1は、やっぱりガチンコじゃなくて出来レースだったんだなと、冷めた気持ちになった。実際、関係者から「小さい事務所にいるタレントは、エントリーするだけ無駄だよ」と言われたことだってある。
その一方で、もしかしたらという希望もあった。
吉本以外の芸人でも、決勝に行くことは、できるんだ。実際、この2007年は、ライブでも一緒だった仲のいい芸人、『ザブングル』が見事に決勝の切符を手にしていた。
僕らも決勝に行きたい。よりたくさんの人に、ネタを見てもらえる一番大きなチャンス。
何としても、手にしたかった。夢のチャンスだ。
どうせ無理だろうというあきらめと、絶対に決勝に行くんだ! という複雑な思いが交錯するなかで臨んだ準決勝だったのだけど、結果は、やっぱりダメだった……。
このときの悔しさは、ネタを認めてもらえなかった、という気持ちだったのか︒吉本という大きくて見えない壁を突破できなかった悔しさだったのか。
今でもよくわからない。
僕らに残されたチャンスは、敗者復活戦のみ。
敗者復活戦でのネタは、「街頭アンケート」でいこうと決めた。前の年の準決勝でかけた、屋外シチュエーションのネタだ。一度は敗れたネタだけど、完成度には自信がある。もともと『エンタの神様』用につくったネタだが、M – 1用に何カ所も改良していた。こういう大きな舞台で、必ずやる勝負ネタのひとつだった。
(つづく)
復活力
コワモテなのにカワイイ!?と、圧倒的人気を誇るサンドウィッチマン。
「一番好きな芸人1位」(2018.7月号「日経エンタテインメント!」)にも選ばれました。
しかし、彼らは、2007年のM-1グランプリで”奇跡の優勝”をするまでは、“知られてない芸人”でした。
今こそ、あらためて、サンドウィッチマンを知りたい!
そこでおススメなのが、こちらの新刊。
サンドウィッチマンの原点が、赤裸々な素顔が、ぎゅうぎゅうに詰まった一冊です。
宮城から夜行バスに乗って上京し、10年間ふたりで暮らした安アパート。
2人で舞台に出たら、観客も2人しかいなかったこと。
伊達が富澤に感じた”自殺”の気配。
ついに得たチャンス、M-1の決勝で「ネタがとんだ!」こと。
文庫版にのみ収録された、東日本大震災の復興への思い……
恋人も嫉妬する、甘~~い蜜月は、今も続いています。
最高にアツいエッセイの登場です!