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復活力

2019.12.22 公開 ポスト

「優勝は、サンドウィッチマンーー!!」あの瞬間、2人は何を思っていたか?サンドウィッチマン

今年もM-1の季節です。
いまや国民的人気のサンドウィッチマンは、2007年のチャンピオン。
敗者復活からの大逆転劇を見せたわけですが、あの日までは、その名を知る人も少なく、焦燥の中にいました。
彼らの青春時代から震災後の近況までを綴った『復活力』(幻冬舎文庫)より、M-1で勝ち上がっていったあの「奇跡の瞬間」を公開します。

*   *   *
 

(撮影:関根虎洸 2007年

【富澤たけし】
初めて伊達に、コンビを組んでよかっただろ? と思えた

3組すべてのネタが終了した。

そしてCM明け、いよいよファイナル決勝の審査結果が発表される。

サンドウィッチマンが優勝できるかどうか。このときの、僕の予測は半々だった。

もちろん1位になりたかったけれど、3位と言われても受け入れられただろう。それぐらい、やり尽くした感はあった。後で録画した映像を見ると、トータルテンボスもキングコングも、同じようにさっぱりした顔をしていた。当然だろう。この場で「やり尽くした」というところまで出し切れないコンビが、ファイナル決勝に上がって来られるはずはない。

審査員7名。それぞれがモニターに、優勝と思うコンビを挙げてゆく。

1人目、左端の中田カウスさんは、トータルテンボスだった。大竹まことさんがキングコング、オール巨人さんがサンドウィッチマン、ラサール石井さんがトータルテンボス……その辺りで、僕は一瞬、ホッとした。

よかった、ゼロ票じゃなくて。

いちおう、この舞台で互角の戦いをしたんだなと。

トータルテンボスに2票入っている。そこで「あ。うちらの優勝はないな」と思った。彼らに優勝を持っていかれるのなら、まあしょうがないかと納得した。

しかし。

上沼恵美子さんがサンドウィッチマン──。

おっ、2票目!?

僕らの名前が挙がると、お客さんの声が鋭い歓声に変わった。

次の松本人志さんも、サンドウィッチマンを挙げてくれた!

やった、これでもう、大収穫だ!!

あの松本さんに認めてもらえたんだって。この瞬間、伊達は3票入って、自動的に優勝が決まったのを知ったらしいけど、僕はそこまで頭が回らなかった。

(うちらが優勝するのは、おかしいだろう……!!)

その瞬間に頭をよぎった、嘘偽らざる気持ちだ。

「第7代M – 1チャンピオン、サンドウィッチマン! フラットファイヴ所属!」なんて、ありえない。2004年のアンタッチャブルさんみたいに、その前の年に活躍して次年度に優勝というスタイルは想像できるけど、いきなりここで僕らが、敗者復活から優勝なんて……そんなのマンガの世界じゃないか。できるはずないだろうって。

ところが。

ラストの紳助さんが──数秒、間を置いて。

サンドウィッチマンを挙げた!!

「優勝は、サンドウィッチマンーーーーーーーーーー!!」

今田さんのコールが会場を貫いた。

その直後、紙吹雪がクラッカーの音とともに舞いあがった。

お客さんの大歓声と拍手。全員の「本当に!?」というびっくりした顔が、はっきり見えた。

僕はそのとき、

(こんなこと、あるんだ!? マジで!?)

という気持ちだった。

想像が、現実になってしまったという驚き。そして、どこか「まあ、ありえなくはないな」という平然とした感情。ふたつの相反する感情が、ぐるぐる交錯していた。

紙吹雪の中、僕は伊達の肩を引っ張って、グッと抱きついた。また、腕で伊達のメガネをギュッと押し上げたけど、気にしない。

感動もあるけど、正直、こう映ったらカッコいいんじゃない? という計算もあった。全体を通して、僕はM – 1グランプリでの戦いを、適度に客観視できていたのかもしれない。

この場合は、優勝するかできないか。その2択しかなくて、どっちかだろうってイメージできたから、そんなあたふたすることはなかった。

いきなり暗闇から何か飛び出て来たらギャーッ!! ってなるけど。イメージできるものに対しては、割と心の準備はできる方だ。

そういうメンタリティが勝因だったかどうかわからない。けど、いつもと同じペースでできたことが、結果的によかったのは事実だろう。

拍手の鳴りやまない中、伊達が握手を求めてきた。そんなこと、高校時代から付き合ってきて初めてだ。こいつもテレビ映りを気にしてるな? と思った。

でも正直、嬉しかったな。

いろんなものが、報われた瞬間だ。

10年前、あいつに会社を辞めさせてしまった。

実家に対して、肩身の狭い思いをさせた。

賞レースにも無縁の人生だった。

売れない時代を道連れにしたせいで、結婚する予定だった彼女とも、別れさせてしまった。

僕は相方として……伊達にいい思いをさせてやれなかったことを、本当に、申し訳ないと思っていた。

だけど今、こうして日本一の漫才師になれたんだ。

「僕とコンビを組んでよかっただろ?」と胸を張って言える、初めてそう思えた瞬間だった。

 

【伊達みきお】
「夢見心地です!」

審査結果が発表される。

僕はもう、本当に、優勝はないだろうと思っていた。

さっきネタが飛んだ怖さもまだ身体に残っていたし、すべてをやり尽くした、ここまで来られただけでも十分、来年は営業がいっぱい増えるだろうな、と考えたりして喜んでいた。

そして審査員7名が、中田カウス師匠から順にコンビ名を挙げてゆく。

おっ、いい勝負してる!? と思った。

そして6人目、松本人志さんが、サンドウィッチマンを挙げてくれた。

実はこのとき、心臓がはねあがった。

最後の紳助さんがトータルテンボスを挙げても、うちらと3対3の票になる。ルール上では、同点の場合、決勝での得点が上のコンビが優勝のはずだから、松本さんがサンドウィッチマンを挙げてくれた瞬間に、「えっ、優勝した!?」

と思った。

そして最後の島田紳助さんは──。

サンドウィッチマンを挙げてくれた!

その直後、紙吹雪が舞って、今田さんの「優勝は、サンドウィッチマンーーーー!!」というコールが、はっきり聞こえた。

うわっ……!! マジかっ!?

と思った瞬間。

富澤が、グッと抱きついてきた。そしたらまた、メガネがグイッと上がって。「だから痛いっつってんだろ!」というのが、最初の感想だった。慣れないことを、やろうとするなよ。

でも──嬉しかったな。あいつがそんなことするなんて。よほど感激したんだろう。

僕は、握手の手を富澤に差し出した。

あいつもグッと握り返してきた。

紙吹雪がまだ舞い落ちてくる中、握った相方の手は、めちゃくちゃ熱かった。

番組の終了後、紳助さんと一緒の記者会見に参加した。

そのときはまだ「うわ、隣に島田紳助さんがいるよ!」と思ったくらいで、M – 1チャンピオンの実感がなかった。

夜は、番組関係者と出演コンビ総出の軽い打ち上げに出席。偉い人にいっぱい挨拶されて、壇上でひと言コメントを求められたりしたけど、何を言ったか、まったく覚えてない。

優勝直後に言った、「夢見心地です!」という言葉がそのまま続いている、フワフワした時間が続いた。

写真を撮って、大勢に囲まれて、あちこちコメントを取られて……その間ずっとマネージャーも一緒にいて、富澤とふたりきりになれたのは、朝方アパートに帰ってからだった。翌朝の生放送に出演が決まってて、1時間でもいいから家で寝たいと思ってた。

でも、寝られるわけがない。とりあえず風呂を沸かして、湯に浸かって、軽く食べ物をつまんで……富澤と、ぽつぽつと話し合った。

「優勝しちゃったなぁ」

「そうだな」

「すごいよなぁ、俺ら」

「うん。信じられないな」

何だか、仙台の高校時代の空気に戻ったみたい。

特に話すことはない。ただポーッと、昂揚した気分を、友だち同士でかみしめあっている感じだった。

くつろいでる間、僕は携帯電話の充電をしていた。そうしたらメールをがんがん受信している。受けても受けても止まらない。わーすげー! って、驚いて見てた。

結局、その夜だけで400件以上のメールが届いた。中には、全然知らない人からも「おめでとう!」って。誰だよ、お前はって。

二郎さんからもメールがあった。

[伊達ちゃん抜きで祝勝会やってるから、もし来られたらおいで! ]

って。いやぁ、涙出そうだったな。行きたかったけど、仕事があったから残念。その祝勝会では、二郎さんが自腹でドンペリをふるまって、タイムマシーン3号の関や超新塾のドラゴンなどの後輩芸人たちが、我が事のように「サンドさん、おめでとう!」と号泣していたって。

嬉しいね。

最高の夜だった。

そこからはもう、何もかもが変わった。息つく暇がまったくない、膨大な量の仕事が舞いこんできた。
 

――まだまだつづきます。このつづきは『復活力』(幻冬舎文庫)でお楽しみください。

関連書籍

サンドウィッチマン『復活力』

強面だけど心優しいコンビとして国民的人気者の、青春時代の素顔とは?――安アパートで10年間、布団を並べて眠った。二人で舞台に出たら観客も二人だった。トイレには「みー君へ」と書かれた富澤から伊達へのメモが貼られていた。恋人も嫉妬する(!?)長〜蜜月!笑いを心底愛し、震災後の東北を支援し続ける二人の、バイタリティの原点。

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復活力

コワモテなのにカワイイ!?と、圧倒的人気を誇るサンドウィッチマン。
「一番好きな芸人1位」(2018.7月号「日経エンタテインメント!」)にも選ばれました。
しかし、彼らは、2007年のM-1グランプリで”奇跡の優勝”をするまでは、“知られてない芸人”でした。

今こそ、あらためて、サンドウィッチマンを知りたい!
そこでおススメなのが、こちらの新刊。
サンドウィッチマンの原点が、赤裸々な素顔が、ぎゅうぎゅうに詰まった一冊です。

宮城から夜行バスに乗って上京し、10年間ふたりで暮らした安アパート。
2人で舞台に出たら、観客も2人しかいなかったこと。
伊達が富澤に感じた”自殺”の気配。
ついに得たチャンス、M-1の決勝で「ネタがとんだ!」こと。
文庫版にのみ収録された、東日本大震災の復興への思い……

恋人も嫉妬する、甘~~い蜜月は、今も続いています。
最高にアツいエッセイの登場です!

バックナンバー

サンドウィッチマン

伊達みきお(ツッコミ担当)と富澤たけし(ボケ担当)によるお笑いコンビ。2007年M-1グランプリ王者。ともに1974年生まれ、仙台商業高等学校卒業。ラグビー部で一緒だった関係で、富澤が伊達を誘い、お笑いの道へ。2011年3月11日、気仙沼市でロケ中に、東日本大震災が発生。故郷でもある東北の復興のための活動も積極的に行う。みやぎ絆大使、東北楽天ゴールデンイーグルス応援大使、ベガルタ仙台市民後援会名誉会員、喜久福親善大使、宮城ラグビー親善大使、松島町観光親善大使、伊達(だて)美味(うま)PR大使、福島県伊達市・伊達なふるさと大使、みなと気仙沼大使。(撮影:関根虎洸)

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