「カフェご飯ってさ、言うほど美味しいものにアタることないよね」
そんなことを言う友人が、けっこういる。
ちょっと納得してしまう。だが、そんなことを言っている友人の言葉と固定観念をひっくり返したくて、わざわざ“食べに”立ち寄るカフェがある。
いや、通っているといっていいほどだ。
何度も食べるだけで、固定観念が勝手にひっくり返るほど、そこには、完璧なカフェが作ってくれる「完璧なカフェご飯」があるのだ。
札幌市、中央区。
そこを真っ二つにわけるようにして流れる、創成川という川がある。
創成川より西側へ行くと、人の通りが多くなるが、そのカフェは、西とは逆にある。
つまり創成川から東に向かって歩くと、住宅街の中に突如として姿を現す。
この近辺は、雪が降っている季節でなければ、最高の散歩コースだ。
この日も、夏の終わりの夕暮れの中を、大通りから東に歩いて向かった。
二条市場が視界に入る。お店の中には、きっと観光客がいて、大きな海鮮丼をほおばっているだろう。その光景もまた、札幌らしい安定の風景だと思う。
大通りから、創成川を超えて東へ歩く道には、古い純喫茶が何店かある。あきらかに昔から営業しているようなお店が多く、今度はここへ来てみよう、その次はあっちへ行ってみよう、あの薄暗さの中にはどんな空間が待っているのかなどと、想像力が膨らむ。なんだか、カフェにつくまでに、心の中でカフェ巡りができてしまう。
ほどなくして、到着。
FAbULOUS(ファビュラス)。
このカフェの異空間に魅了される、北のカフェ好き人間は多い。
一歩、中へ入ると、吹き抜けのラウンジが出迎えてくれる。
打ちっぱなしのコンクリートの壁。高い天井。そして、ズラリと並ぶ木製の家具、ソファー、絵画、たくさんの緑の植物。何から何まで隙がなく、お洒落だ。
この日は、席に空きがあったため「お好きな席へどうぞ」と案内される。
席に座り、ビーフシチューと、パウンドケーキを注文する。
ここ、ファビュラスのコンセプトは、「『衣』『食』『住』『アート』の融合」。
こういったフレーズの響きだけを聞くと、よくありがちに感じるが、そのぶん、そのコンセプトを華麗に表現できるカフェは少ない。
その点、ここファビュラスは、まさに完璧。
完璧な、「『衣』『食』『住』『アート』の融合。
カフェスペースの横では、雑貨類の販売があって、訪れた客を何ひとつ退屈させない、完璧な空間演出がなされている。
トルコ製のマット類。選び抜かれた食器。古着。数々の絵描きアーティストたちの、血と汗の結晶の様な絵画とともにある、アトリエ。
見ているだけで欲しくなるものばかりだ。
欲しくなって迷っていると、注文した「カフェご飯」が席に届く頃になっている。
全部楽しい。何もかも楽しい。
ビーフシチューが運ばれてくる。
ほほ肉だろうか。スプーンで切れる牛肉が絶品だ。
「そういえば今日、誰かがなんか言っていたけれど、このカフェご飯を見よ」。心の中を、そんなフレーズがよぎる。
一気に食べきってしまい、続いてパウンドケーキが運ばれてくる。
お菓子の名店、霜月堂(シモツキドウ)の厳選素材を使っているパウンドケーキが登場。
この日は、チーズとブルーベリー、そこに珈琲が染み込ませてある、ティラミス風のパウンドケーキが用意されていた。
柔らかくなく、しっかりとした弾力。甘すぎない風味。絶妙だ。
この霜月堂もまた、北の人々の中で、名が知られているお店のひとつ。
ランチタイムになれば、名物の絶品のガレットなども提供されている。
そば粉がほどよく香るが、まるでしつこくない、絶妙なラインを踏んでいる味付けのガレット・コンプレットも、何度でも食べたくなる「ザ・カフェご飯」だ。
ファビュラスという言葉を辞書で引くと、「ものすごい」「途方もない」「非常に素晴らしい」という3語が掲載されていることが多い。
そのどれもが、このカフェに似合うと思う。あえて、どれが最も似合うかといえば、「非常に素晴らしい」かもしれない。
「そうせい」という言葉の響きといえば、北海道の多くの人たちにとって、創成川だった。
しかし、今では、「そうせい」と言えば「創世スクエア」となっている。
2018年10月にオープンした超高層建築物・複合施設だ。
この創世スクエアは、札幌市中央区の風景を、とても美しく変えつつある。
それでも。
「あの創成川の裏側に、カフェご飯が本当に美味しい、完璧なカフェがあるんだよ」という言い方は、この先もずっと、使われそうだ。
※ビーフシチューは現在販売しておりません。
FAbULOUS
北海道札幌市中央区南1条東2-3-1 NKCビル 1F