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医者が教える 正しい病院のかかり方

2020.01.01 公開 ポスト

お腹が痛い!怖い病気を見分ける方法は?山本健人(医師、医学博士)

(写真:iStock.com/tora-nosuke)

飲みすぎや食べすぎ、胃腸炎など、年末年始はお腹のトラブルが起きやすい時期。「怖い腹痛か、そうでない腹痛か」はお医者さんでなくては判断できませんが、救急外来を受診するかどうかの目安に、また、お医者さんに自分の症状を説明するときの目安に、知っておくと役に立つことがあります。「外科医けいゆう」こと山本健人さんの『医者が教える 正しい病院のかかり方』からお届けします。

*   *   *

腹痛は、誰もがよく経験する症状です。

「強いお腹の痛みがあったが、時間が経てば自然とおさまった。何の痛みだったんだろう?」

誰しも、そんなふうに感じた経験があると思います。大半は、食べすぎや飲みすぎ、便秘で便やガスが溜まっている、といった、「病的ではない腹痛」です。

お腹の中にはたくさんの臓器があります。

胃、小腸、大腸、肝臓、胆のう、膵臓などの消化器系の臓器
子宮卵巣といった婦人科系の臓器
膀胱尿管といった泌尿器科系の臓器
大動脈のような太い血管

これらはいずれも腹痛を引き起こすことがあります。中には、治療が必要な怖い病気が隠れていることもあります。どのように見分ければよいのでしょうか?

基本的に、医師が診察しない限り、「怖い腹痛か、そうでない腹痛か」を自力で見分けることは簡単ではありません。「不安なら受診」という方針を原則おすすめしますが、あくまで目安として、チェックすべきポイントをまとめておきます。

ポイントは以下の4つです。

(1)痛みの始まり方

腹痛が突然始まったか、ゆっくり始まったかをチェックします。「突然始まる」というのは、何をしているときに始まったか、ということを細かく言えるくらいの痛みを指しています。

瞬間的に起こった強い腹痛は、大動脈瘤破裂や腸の動脈閉塞(動脈が詰まる病気)など、血管系の痛みのことがあり、すぐに治療が必要なケースは多くあります。また、女性の場合は、子宮外妊娠の破裂や卵巣出血が突然発症の腹痛の原因になります。

ちなみに、卵巣出血は性行為の直後に痛くなるのが典型的です。この場合、痛くなった経緯を医師に話しづらい、と感じる方が多いと思いますが、正確な診断のためには、むしろ最初に医師に伝えなくてはならないポイントです。

一方で、虫垂炎(いわゆる「盲腸」)や胆のう炎、胆管炎、憩室炎(けいしつえん 大腸のくぼんだところに炎症を起こす病気)などの炎症性の病気や、手術後の癒着、大腸や小腸の腫瘍が原因で起こる腸閉塞などの消化器系の病気は、ゆっくり始まることがほとんどです。

また、炎症性の病気は、大部分は細菌感染が原因のため、発熱を伴う傾向があります(ご高齢の方はまったく熱が出ないケースもありますが)。

もちろん、ゆっくり始まったケースなら安心、というわけではありません。すぐに治療が必要な病気もあるため、次に挙げるポイントを順にチェックしてみてください。

(2)痛みが始まった後の経過

長時間ずっと痛いのか、断続的に痛い(痛くなったり、痛くなくなったりの波がある)のかをチェックします。一般的には、「長時間ずっと痛い」「波がない」というケースでは、治療が必要な病気が原因であることが多い傾向にあります。

一方、痛みに波があるケースでは、腸炎や便秘、腸のぜん動に伴う痛み(ぜん動痛)などが原因であることが多く、緊急での治療が必要であることは少ない傾向があります。

(3)痛む部位

どの部位が痛むかをチェックします。痛む部位が一定せず、あちこちが痛くなる場合や、漠然とおへその周りが痛い、どこを押さえても何となく痛む、という場合は、腸炎や便秘、ぜん動痛など、緊急ではない痛みを考えます。

一方、「押さえると痛い部位が特定の1カ所だけある」という症状の場合は注意が必要です。その部位にある臓器の何らかの病気が考えられるためです。

各部位にある臓器別に病気をすべて説明すると、それだけで本が一冊書けるほど情報量が多くなるため、詳細はここでは割愛しますが、重要な以下の3点だけ、覚えておいてください。

まず1つ目は、虫垂炎についてです。

昔から、虫垂炎はなぜか「盲腸」と呼ばれていますが、盲腸は部位の名前で病名ではありません。虫垂という部位に炎症が起きるため、正確には「急性虫垂炎」です。虫垂炎は、必ず病院で治療を受ける必要があり、時に手術が必要なこともある病気です。

虫垂炎の場合は、「最初にみぞおちあたりが痛くて、その後右下腹部に移動する」というように、痛みの場所が移動することがあります。虫垂がある右下腹部の1カ所だけが常に痛いとは限らないため、注意が必要です。

2つ目は、妊娠に関わる痛みである場合です。

妊娠に関わる腹痛の場合、見逃すと母子ともに非常に危険です。妊娠している可能性が絶対に0%だ、と言い切れないときは、病院での妊娠検査が必要だとお考えください。短時間で検査ができます。

3つ目は、1カ所が痛いのではなく、お腹全体がすごく痛い、歩けないほどの激痛がある、というケースです。この場合、重度の腸閉塞穿孔性腹膜炎(胃や腸に穴があいて腹膜全体に炎症を起こしている状態)などを疑います。

特に、腹膜炎がお腹全体に広がると、命に関わることがあります。「お腹のどこを触っても激痛」「軽く押すだけ、あるいは触れるだけでも激痛」「座る、立つ、咳をするといった軽い振動でも激痛」といった症状が典型的です。もちろん、このような強い痛みがお腹全体にあれば、迷わず病院に行く方は多いと思います。

(4)歩くと響くかどうか

歩くと響くようなお腹の痛みは、腹膜炎のサインとされています。虫垂炎や憩室炎は周囲の腹膜に炎症が起きるため、歩くとお腹に響くような痛みがあります。

腹膜炎の痛みは少し動くだけでお腹に響くので、「痛くてじっとしている、うずくまっている」というのが典型的です。逆に、「痛くてのたうちまわっている、暴れている」というようなケースは、むしろ腹膜炎の可能性は低く、尿路結石など、緊急性の低い病気の方が多い傾向にあります。

症状が軽い場合は、ジャンプする、背伸びした後かかとをストンと落とすなどしてお腹に振動を加え、痛い部分に響くかどうか確認してみるのも一つの手です。実際私たちも、診察室で患者さんに対して行う方法です。以上が、腹痛の際にチェックしていただきたいポイントです。病院に行く場合でも、ここに書かれたチェック項目を確認しておけば、自分の症状を上手に医師に伝えることができ、スムーズに診療を受けられるでしょう。

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山本健人『医者が教える 正しい病院のかかり方』

世の中には様々な医療情報があふれているが、その中身は玉石混淆。命の危機につながる間違った情報も少なくない。そして病院に行ったら行ったで、何時間も待って診療は数分、医者に聞きたいことがあっても聞けない、説明されても意味が分からない等々、患者側の悩みは尽きない。私たちはどうしたらベストな治療を受け、命を守ることができるのか? 正しい医療情報をわかりやすく発信することで、多くの人から信頼される現役医師が、風邪からガンまで、知っておくと得する60の基本知識を解説した、医者と病院のトリセツ。

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医者が教える 正しい病院のかかり方

風邪からガンまで。命を守る60の選択を、外科医けいゆう先生が解説。

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山本健人 医師、医学博士

2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営。Yahoo! ニュース、時事メディカルなどのウェブメディアで定期連載。全国各地でボランティア講演なども精力的に行っている。著書に『医者が教える 正しい病院のかかり方』『がんと癌は違います』(共に幻冬舎新書)、『患者の心得 高齢者とその家族が病院に行く前に知っておくこと』(時事通信社)ほか。

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