にしのあきひろさんの絵本「えんとつ町のプペル」が劇場アニメになることが、正式発表されました!
公開は、2020年12月。
西野亮廣さん自ら脚本を書き、製作総指揮もとります。
監督は廣田裕介さん。
アニメーション制作は、「海獣の子供」「ハーモニー」のSTUDIO4℃。
配給は、東宝と吉本の共同。
キター!! です。
絵本が発売になったのは2016年10月なので、ほぼ3年……。
この3年間、西野さん自身の変化も、西野さんがつくる時代の変化の波も、凄まじかった!
今の西野さんの印象が強い人たちからすると、“何をやっても形にして数字を出す、勝ち組まっしぐら! ”みたいなイメージが強いかもしれませんが、ずっとそうだったわけではありません。
絵本『えんとつ町のプペル』が発売された頃の西野さんは、絵本の主人公のように、誰にも理解してもらえない孤独と苦しみの中にいました。今の印象とはずいぶん違うと思います。
映画化が決まった今、原作絵本の制作の裏話をお伝えします。
といっても、昔の西野さんのブログにもいろいろ書いてあるので、
ここでは、担当編集者の視点で、お話します。
「絵本らしくない」と言われたモノクロの絵本からスタート
西野さんが初めて作った絵本は、『Dr.インクの星空キネマ』(2009年1月刊)。
絵本といいつつ、144ページもあります。4章立てで、文章も多い。
しかも、全ページモノクロ!
刊行したときは「これが絵本? 子ども向けじゃないよね?」みたいな声も聞こえました。
今思えば、このときから、西野さんは革命家でした。
黒いペンのみを使ってこつこつ描き上げたものなのですが、そのペンの選び方が異常でした。
「一番細いペンをください」
東急ハンズで店員さんに相談して、教えてもらった0.03ミリのペン。以来、ずっと使い続けるのです。
夜空も、暗い森も、ごちゃごちゃした街も、すべてそのペンで書くようになりました。
0.03ミリのペンで描くというのはどういうことか? めちゃくちゃ時間がかかるということです。1枚の絵を描くのに、最低1か月。楽屋でも自宅でもコツコツ描き続けて、それでも1か月です。
「もーやだ」「もぉいやだあー」とよく言っていました。
ある番組の企画で、「3分間で描けるだけ描いてください」というのがあったのですが、そのとき西野さんは、5ミリ四方の石畳を2つ分ほど描いただけ。それくらい、丁寧で時間のかかる仕事というわけです。
はじめてペンを買いに行ったとき対応してくださった東急ハンズの店員さんは、西野さんがディズニーを倒すための第何歩目かに背中を押したキーマンかもしれません。
ちなみに、西野さんは「誰からも絵を特別に教わったわけではない」とか。ただ、小学校のときの絵の授業で、黒しか使わないで描いていたら、先生が「西野君はそれでいい。好きなように描いたらいい」と言ったそうです。
その先生は、“エピソードゼロの時代”の西野さんの背中を押したキーマンかもしれません。
あと、インタビューのたびに、「エロ本が買えなくて、女の子の裸を想像して描いていたから上手くなった」と言ってますので、キーウーマンがたくさんいたと思われます。
『えんとつ町のプペル』幻のモノクロページ!
以後、『ジップ&キャンディ』『オルゴールワールド』と、モノクロの絵を描き続け、絵本を作ります。
その流れだったので、最初、『えんとつ町のプペル』は、モノクロの本になる予定でした。
実は、『えんとつ町のプペル』には、世に出ていない数枚が存在します。
西野さんが0.03ミリの黒いペンで書いた絵です。
ところが、ここまで描いておきながら、突然、言いました。
「今度の絵本はカラーにします」
えーーーっ! でもなるほど、それはいいかも。私も見てみたい!
「でも、僕は描きません」
え……意味がわからない……西野さんは何を言っているのだ?
「なんで絵本って、一人で描かなくちゃいけないんですかね?」
す、すごい角度から質問が飛んできた……確かにそういわれると、当たり前のことだと思いすぎてて考えたことがない……1冊あたりにかけられる予算が限られているとか……作品の統一感……とか……
「『えんとつ町のプペル』は、僕の希望の形で絵を描ける人を集めて、作ります」
な……なるほど。でも、そんな人、どうやって探すの? そもそも、大人数を集めてギャラはどうなる? でもって、”著者名“はどうするの……?
私はこのとき、濃い霧の中にいるかのようで、「オッケーオッケーやりましょう!」とは言えませんでした。
その後、きっと西野さんは、他の人にもいろいろ相談したのでしょう。SNSにも書いていましたが、それに対して「絵本というものはね」という“正論”をぶつけてくる人が何人もいました。
でも、西野さんの意思は固かった。というか、「僕は描かない」と言ったときすでに、西野さんには「道筋」がきっちり見えていたんだと思います。
ちなみに、今も昔も西野さんは、思いつくとぽろぽろいろんなことを言います。(それはもう、いろいろ!)
しかし、何の根拠もなく変なことを言うようなことは、一度もなかった。将棋でいえば、一般人には見えない100手先くらいまでを、がっちり見ているのです。行きたい目的地がはっきりしていて、そこへの最短距離を頭の中でおそらく何度もシミュレーションして、イメージしつくしているのです。西野さんが楽しそうに言うため、ノリで言ってるようにみえて油断するのですが、実はここで油断は禁物です。
それから、誤解があってはいけないので、説明しておきますが、西野さんは「描かない」といっても、全部下書きを描いています。その下書きのスケッチブックだけで、1冊の絵本にしてもいいのではないかしら?と思うような魅力的な絵です。
前代未聞! 絵本一冊を30人以上のチームで。制作費1億円はクラウドファンディングで。
――僕のこれまでの絵本は売れてない。売るためには、同じことをしても意味がない。
実際は「売れてなかった」わけではありません。しかし、当初から世界を獲ることを目指していた西野さんの満足がいく数字ではなかったということです。
そこから西野さんは、ひとりで、自分の代わりに描けるクリエイターを探し始めました。
そして、大量のクリエイターをマネジメントしているMUGENUPという会社とつながり、数万人のリストをもとに、35名ほどに絞り込みます。
人件費、制作費問題は宙に浮いたままだったので、ハラハラしながらその様子を見ていました。私が言えることは「出せる制作費はありません」ということ。これしか言えないって、本当に苦しい…。
すると、
「お金は自分で集めます」
西野さんはクラウドファンディングを立ち上げて、見事に成功。1000万円以上を集め、それが大きなニュースになり、見たことのない形での制作が始まりました。
そのあたりのことは、当時の西野さんのブログに詳しく書いてあります。
フリーのクリエイター30人以上に声をかけたので、それぞれ別々の場所にいながら、一つの同じ世界を描くことになります。そこにズレがあるといけません。
そこで、まず、町の地図を作る。
地図があれば、絵を描くときに、「えんとつはこの方向に見えるはず」「ここには町の〇〇が見えなくちゃおかしい」というのを共有できるようになる。
もうひとつ、複数のクリエイターが世界観を共有するために作ったのは「えんとつ町のプペル」という「曲」。
”ふつう”であれば、できあがった作品に音楽をつけるものなのでしょうが、作品ができるより先に音楽を作る、というマジックのような技。
「曲ができました!」と言って、早々にYouTubeにアップする。
そういえば西野さんは、絵本を出すたびに言ってました。
「音楽はすごい。音楽は強い。音楽には勝てない」。
その音楽を、西野さんは味方につけたわけです。この曲を通して、参加クリエイターたちのクリエイティブを、威圧感なく、ナチュラルにコントロールしていきます。
西野さんが描いた下書きをもとに、街を描く人、雲を描く人、灯りを描く人、キャラクターを描く人……それぞれの得意なものを描いてもらって、まとめていく、という作業が始まります。キャラクターのサイズ表も作っていましたが、こういうのって、アニメ制作のスタジオで見たことがあります。
なんと、絵本を制作する段階から、アニメーションを作るような方法をとっていたことがわかります。出来上がってくる一枚一枚に直しを入れていく様子も、アニメーションのスタジオにいる監督さんのようだと思ったのを覚えています。
そうやってできてきた絵は、圧倒的な美しさでした。
紙の限界を追求する
特に光の色が印象的なので、デザイナー名久井直子さんや印刷担当者と、西野さんの情熱に応えるための最善の方法を探りました。
結果的に、5色のインクを使って印刷(通常は4色のインクで印刷します)。それも通常のインクではなく、発色のいい特色インクを使う……という、コストも手間もかかる方法を選びました。
そして、文字の背景を黒にして、絵の光が際立つようにしました。
……実は、文字の地色を黒にするというのは、最後の最後で決まりました。
最初、“ふつうに”白地に文字を置いて進めていました。
そうして、最終の確認をしましょうという「色校作業」のとき、西野さんが言います。
「なんでここ、白地なんでしたっけ?」
あ……そこ、考えてない。というか“ふつうに”やってた……。なるほど、そこか。そこがあったか。こんな調子じゃ、この先、並走できない……。頭をガーンと殴られた気持ちでした。
会社に戻って言いました。
デザイナーの名久井さんにも言いました。
「ごめんなさい! 色校まで出ましたが、地色、全面変更です!」
発売日までの日数がどんどん迫っている時でした。
こうして、
5色のカラーインク&“ふつうだったら白い部分”がスミベタ真っ黒…という絵本になったわけですが(結果的に、めちゃくちゃ美しい仕上がりになりました!)、実は、これが苦しみを生むことになります。
絵本が品切れてしまったとき(私の読みが甘かった!)、増刷を決めても、普通の本以上に印刷に時間がかかるのです。印刷そのものだけじゃなく、「インクを乾かす時間」もかかるのです。それはつまり、お客さんをお待たせしてしまう時間が増えてしまう……。
せっかく楽しみにしているのにお客さんを待たせることは、西野さんにとって、痛みでしかなかったはずです。もちろん、私も痛い。でも「増刷っていうのは物理的に時間がかかるもの。しかも今回の造本は特殊だ」という言葉で、納得しようとしていました。でも、西野さんには、そんな“ふつうの”言葉は届きません。
「読み」の難しさを痛感した時でした。
「自腹で1万部買います」
この作品に勝負をかけている西野さんにとって、初版部数がこれまでの実績と同じような数字では満足できるわけがありません。西野さんは発売前から、SNSを使って何かと話題を作っていました。制作過程もどんどん見せていましたし、ニュースも続々作っていた。これまでにないやり方を見ていましたから、過去の3作より部数を大きくしたいとは思っていたものの、「最低でも〇万部」みたいな数字を約束することができませんでした。
そこで、西野さんが言ったことばは、
「僕個人で、1万冊買います」
1万冊! 初版5000部とかでも普通なのに、個人ひとりで、1万冊?
結果的には1万冊どころか、さらにどんどん追加されるのだけど、西野さんは、自分で買った本に自分でサインを入れ、注文をとってひとりひとりに送るという作業をし始めました。当時まだ、西野さんはオンラインサロンをやっていなかったので、SNSで呼びかけて、参加してくれた人たちが、あて名書きと、袋詰めの作業をしてくれたのを覚えています。
自腹で5000冊買い上げて、日本中の図書館への寄贈もします。
さらに、
西野さんは、すべての絵を、「光る絵」として開発。
真っ暗な会場で絵自体を光らせるという、「光る絵展」を開催します。入場料を無料にするという挑戦をしたため、小さな個展会場は毎日行列ができました。とにかく大盛況。
ですが、この個展も、スムーズに始まったわけではありません。
もう明日スタート、というときのこと。
現場で西野さんが言った言葉は「明るすぎる」。
ギャラリーが白い壁だったので、電気を全部消しても、光る絵自体の明るさが、目立たない。
白い壁が、光を反射してしまうのです。
といって、白い壁を今から黒く塗ることは不可能。
しかし、これで納得する西野さんではありません。お客さんを最高に楽しませる状態にするまでは、イエスは言いません。
黒い布を大量に用意して、つぎはぎにして(壁一面を覆うような大きな布はそんな急に集められませんから)、それで壁を埋めたのです。
すると……暗闇の中で、絵が光った!!
一気に幻想的になったのです。
ちなみに、この「光る絵」は、セットで複数つくり、それを希望者に貸し出すことで、日本中で個展が開催されるようになります。西野さんが足を運ばなくても、『えんとつ町のプペル』の作品世界を体験できるようになります。
「作品が一人で歩き始めた」
という言い方をすることがありますが、西野さんの場合は、
「作品をひとり歩きさせるために、西野さんが足をつけた」
です。
「なんとなく売れる」という期待にゆだねることなく、「売れる道筋を徹底的につける」という姿勢を、まざまざと見せつけられました。
大炎上した無料公開!
そんなこんなでニュースの多いこの作品は、売れます。増刷をどんどん重ねていきます。
しかし、そんなふうに売り上げを調子よく伸ばしているときでも、西野さんは満足しません。
飲んでも飲んでも飲み足りない、「うわばみ」です。
ついに西野さんは、大いに世間をにぎわせた、アレをやります。
そう、「全文無料公開」です。
年が明けて少ししたある日の午前中、電話がかかってきて言います。
「袖山さん、いいこと思いつきました! 全文無料公開します!」
……い、、、いいこと!?!?
声の気配から、めっちゃ笑顔なのが伝わってきます。天才は、常に無邪気。純粋に「いいこと思いついた!」なのでしょう。
しかし、2000円の本を、全文無料公開。
頭にボスの顔が浮かびました……。
窓の外には、空がきれいに見えていました……。
この頃の私は、西野さんがこんなふうに何かを言うときは、覚悟が決まったときだというのが分かっていたので、アタマの中に浮かんだ記号は「YES」のみでした。
「西野さんのやりたいことには、オールOK」
抜群の頭の回転と行動力で、長期的展望も短期的目標も同時に見ながら、仕掛けることも動くことできる人が目の前にいる。であれば、出てきた提案を、これまでの慣例や常識に照らし合わせて反論したり確認したりする時間は無駄。信じて並走するのがベストで、わからないことは走りながら聞けばいい。
展望を見切る能力が圧倒的に優れた人がいるなら、「秒」で即判断してついていくのが、いちばん合理的で、結果ハッピー。
そもそも誰かが強く何かを「やりたい!」と思うのであれば、「いいねいいね」で進めるほうが、気持ちがいいし、きっとうまくいく。
とはいえ当時、西野さんのやることは、斬新すぎるあまり、たびたび「いや、ちょっと待って」が入りました。
いま、必要なのは、勇気と調整力です。
しばらく椅子に座り込んで、私は漫画みたいに頭を抱えました。
どのタイミングでボスに言うべきかーー。
西野さんが公開ページをアップするまで待ちました。
事後報告として、報告しました。
当然叱られます。
しかし、無料公開がニュースになり、さっそくテレビでも取り上げられて、その日の夕方には、アマゾンでのランキングがまたまた総合1位にアップ。
ボスから電話がかかってきました。
「よかったじゃないか。こういうことなんだな」
たとえ通例から外れた異常な方法でも、成果が出たのであれば、シンプルにそれは正解。状況と判断の変化を「秒」で受け入れるボスも、さすがの革命家でした。
革命家と革命家の間で、空を見上げて頭が真っ白になった時間が、急にいとおしく思えました。
このあたりから先は、「西野さん」というジャンルがひとつできたかのようで、私のまわりでも、向き合い方を変えたり、特別な体制を考えてくれたりする理解者が増え、動きやすくなりました。
実際、数字がどんどん出ました。
この『えんとつ町のプペル』の売り方についての試みをまとめた『革命のファンファーレ』もベストセラーとなりました。新しいビジネスを次々立ち上げたり、美術館を作ったり、町を作ったり、ニューヨークやパリのエッフェル塔など海外での個展を成功させたり、海外の子供たちに絵本を寄贈するために世界中を走り回ったり、オンラインサロンの会員数が3万人を越えたり…西野さんの活動は、スケールをどんどん大きくしています。すさまじいスピードで、勝ち組街道を走っているようにみえるでしょう。
でも、ちょっと前は、
この記事を読んでいただけるとわかるように、
自分の命を削って作ったものは、「変わりもの」扱いされ、
新しいチャレンジをしたいと言っても、首をかしげる人ばかりで、
いざ動こうとしても理解者が少なく、結局、動くのは自分一人という孤独の中にいました。
そもそも『えんとつ町のプペル』が、なぜ生まれたのか?
この物語は、自分の存在を否定され、共感を得られず、虐げられてきた主人公が、仲間を作り、誰も信じていない美しい景色を見に行く話ですが、
まさに、西野さんの自伝だったのです。
主人公は、
「雲の上には星があるから」
と何度言っても、信じてもらえないのですが、まさにそれが西野さんだったわけです。
ずっと近くで並走している私でさえ「本当に星なんてあるの?」とどこかで思っていた気がします。
しびれを切らせた西野さんの「何度言ってもわからないみたいだから、子どもにでもわかるようなお話にしてあげたよ!」
と言う声が聞こえてきそうです。
これは、私だけでなく、いろんな人が心当たりのある感覚なのではないかと思います。
西野さんは、昔からいつも、変わりません。
何かを話すときは楽しそうで、一生懸命で、夢みたいな話が好きで、ふざけるのも真剣で、一度信じたら揺るぎません。
飽きっぽいはずなのに、誰よりも、地味な努力はこつこつと続けます。
誰もまだ見つけていない星を見つけられる人って、そして、星を見る旅にみんなを連れて行ってくれる人って、こんな人なんだろうなあと思います。
絵本『えんとつ町のプペル』は、映画「えんとつ町のプペル」のストーリーの中の、ほんの一部だそうです。
本当の物語が、ついに始まります!
西野亮廣の本
絵本作家、芸人、映画製作総指揮など、さまざまな肩書で活躍する、にしのあきひろ/西野亮廣さんの本にまつわるさまざまなニュースや新刊情報などをご紹介。
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