責了したとの連絡を貰って、ようやくほっと息をついた。
責了とは、小説を印刷するまでの作業が終わったことを指す。校正、再校、念校と三回も原稿を確認させてもらって、この原稿のためにわたしのできることは終わった。
長編小説を書くのは何年ぶりだろう。短編小説や映画のノベライズやほかにもいくつかの小説仕事をしたけれど、完全にオリジナルの長編小説を書くのは、本当に本当に久しぶりだ。
わたしがはじめて小説を書いたのは、二十歳のときだった。あの頃は本当に若かったのだとしみじみ思う。体力と能天気さと根拠のない自信があった。今はその三つともほとんどない。そしてその結果、わたしは大変な病に冒されてしまった。まさにそれは、「小説家という病」だった。
その症状は、本当に恐ろしいものである。
ここから先は会員限定のコンテンツです
- 無料!
- 今すぐ会員登録して続きを読む
- 会員の方はログインして続きをお楽しみください ログイン
愛の病の記事をもっと読む
愛の病
恋愛小説の名手は、「日常」からどんな「物語」を見出すのか。まるで、一遍の小説を読んでいるかのような読後感を味わえる名エッセイです。