人前で話すのが苦手、緊張してあがってしまう、社交の場を避けがち……。10人に1人が抱えているという「社交不安障害」。心当たりのある方も多いのではないでしょうか? 精神科医、岡田尊司さんの『社交不安障害』は、このやっかいなシンドロームの克服法を優しく教えてくれる本。自分を縛る不安の正体を知り、有効なトレーニングを積めば、改善は十分可能です! そんな本書の一部をご紹介します。
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自分に感覚を向けすぎない
過剰反応を止め、コントロールを取り戻すために有効な方法の一つは、視野を広くとるということだ。視野を広くとるということは、周りをよく見るということである。
顔を起こして、ゆっくり周囲を見渡すようにする。相手の反応や周囲の状況を観察するように目を動かし、しっかり見ることを意識しながら行動すると、冷静さを保ちやすい。
逆に悪い反応の仕方は、いまの苦しさや不安にばかり注意をとられ、周囲をきちんと見られなくなってしまうことだ。
冷静さを保つコツは、周囲の状況を客観視することだ。そのために、われわれが心がけるべきことは、自分の反応ではなく、周りを見るということである。
社交不安障害の人は、人の評価や人からどう思われるのかということに過度に敏感になっている。自分の全身に、一挙手一投足に、評価する他人の視線を感じてしまい、まるで視線という粘った糸によってがんじがらめにでもされたかのように、自然で自由な動きを奪われてしまい、思考さえもいつもの自分らしさを失ってしまう。
それは極度の緊張と、それにともなう視野狭窄の結果だが、自分に起きていることがわからず、どんどん深みにはまってしまうのだ。そして、いつもと違う自由の利かない感じに焦り、もがけばもがくほど、トンチンカンな失敗をしてしまい、失笑や嘲笑といった反応が起きると、さらに狼狽し、平常心を失ってしまう。
ここでポイントになるのは、緊張とともに視野狭窄が起きてしまうということだ。緊張するだけでなく、みんなの視線を感じ、自分が緊張しているという感覚に注意を奪われることによって周囲が見えなくなってしまう。
悪いプロセスにはまり込んでしまうかどうかの分岐点は、自分が緊張してしまっているとかみんなから注目されているという感覚に注意が奪われてしまうか、それとも、自分の感覚よりも周囲のことに注意を配分できるかどうかという点だ。
つまり、ある程度緊張したとしても、失敗や混乱の状態に入り込まないためには、注意を周囲に配分し、自分の感覚にばかり向けすぎないことが大事なのである。
評価するのは他人ではなく自分
スピーチをうまくこなす人でも、まったく緊張しないという人はごく少数だ。多くの人は緊張しながらも、失策や混乱という事態に陥らないように、肝心なところで注意力を保つことができているわけだが、その秘訣は、意識して周囲に注意を向けるということなのである。
できるだけ周りを見る。ゆっくりと聴衆や周囲を見渡す。話しかけやすそうな人、好感がもてそうな人を見つけ出して、その人に語りかけるように話すというのも良い方法だ。そうすることによって、自分の方に意識が向かいすぎるのを防ぐことができる。
その意味で、注意が一点に集中しやすい人ほど、視野が狭くなり、周囲が見えなくなって失敗をしやすいうえに、そうした事態が起きたときに、そこからうまく抜け出せなくなってしまうと言える。
ここで重要になってくるのが、注意を配分する訓練である。自分の周囲を広角な視野で眺め渡すことが、そうした事態に陥るのを防ぐことにつながる。
そこで浮かび上がってくるのは、社交不安障害の人は、「見られている自分」という意識が強すぎるという問題だ。見られているという意識が、自分らしくふるまう自由さを奪ってしまうのである。
その根源は、常に厳しい目で見張られて、ありのままのその人を認めるよりも、良いか悪いか、優れているか劣っているかといった視線で評価されることが多かったという状況に長年置かれていたことだろう。
評価されることを意識して、良い自分、優れている自分を見せなければという力みが生まれ、それが、自然に自分らしくふるまうことを妨げてしまうのだ。
この呪縛を解くためには、「見られている自分」という意識と結びついた、「低い評価(笑われること、貶されること、期待を裏切ること)への恐れ」を打破する必要がある。
「見られている自分」を「見ている自分」へ、評価するのは他人ではなく、自分だという視点への転換が必要なのである。
また、低い評価を恐れるのではなく、低い評価を受けても負けないことこそが格好いいことであり、笑われたり貶されたりするものこそ真の価値があるのだという価値観の転換も必要になる。実際、歴史をひもとけば、真に価値あるものは笑われたり貶されたりするのがむしろ通例であった。
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社交不安障害
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