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美しい暮らし

2020.02.05 公開 ポスト

イカレポンチの回顧録#3

香港の匂い矢吹透

1971年、父は留学先のシンガポールの南洋大学から、香港大学へと転学し、我が家はシンガポールから香港へ移る。

キャセイ・パシフィック航空の便で、僕ら一家は、啓徳空港へと降り立った。

現在は既にクローズされた啓徳空港への着陸は、とてもスリリングだった。

面積の狭い香港の土地をぎりぎりに使って作られた啓徳空港は、市街地に接近しており、飛行機は、建ち並ぶビル群のすれすれを飛び、滑走路へと突入する。

浅草の花やしき遊園地のジェット・コースターをイメージすると、なんとなく雰囲気がわかって頂けるかもしれない。

啓徳空港の到着ロビーに入った瞬間に、6歳の僕は、立ちこめる香港の匂いに包まれた。

中華街の市場に入り込んだ時に嗅ぐような、にんにくや八角や、さまざまなエキゾチックなスパイスが入り混じったような香りである。

僕は、この匂いに生理的な違和感を覚え、それから続く一年間の香港生活の間中、苦しめられることになった。

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関連書籍

矢吹透『美しい暮らし』

味覚の記憶は、いつも大切な人たちと結びつく——。 冬の午後に訪ねてきた後輩のために作る冬のほうれんそうの一品。苦味に春を感じる、ふきのとうのピッツア。少年の心細い気持ちを救った香港のキュウリのサンドイッチ。海の家のようなレストランで出会った白いサングリア。仕事と恋の思い出が詰まったベーカリーの閉店……。 人生の喜びも哀しみもたっぷり味わせてくれる、繊細で胸にしみいる文章とレシピ。

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美しい暮らし

 日々を丁寧に慈しみながら暮らすこと。食事がおいしくいただけること、友人と楽しく語らうこと、その貴重さ、ありがたさを見つめ直すために。

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矢吹透

東京生まれ。 慶應義塾大学在学中に第47回小説現代新人賞(講談社主催)を受賞。 大学を卒業後、テレビ局に勤務するが、早期退職制度に応募し、退社。 第二の人生を模索する日々。

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