だしのとり方、米の炊き方、肉の焼き方、野菜の茹で方……知っているようで知らない、料理の基本。女子栄養大学名誉教授、松本仲子先生の『絶対に失敗しない料理のコツ おいしさの科学』は、そんな料理の基本をイチから教えてくれる、心強い一冊です。いつもの料理がもっと簡単に、間違いなくおいしくなること間違いなしの本書から、調理のコツ&すぐに実践できるレシピをご紹介します。
* * *
いもや野菜は冷めるときに味がしみ込む
いもや野菜といった植物の細胞は、細胞膜と呼ばれるかたい膜に覆われています。細胞膜の主成分はペクチン。熱を加えると溶ける性質があるので、野菜を煮るとペクチンが溶けて細胞同士のつながりがゆるみ、やわらかくなります。そこに力が加わると組織がくずれ、煮くずれてしまうというわけです。
いもや野菜を煮るときは、やわらかくなったら火を止め、余熱で味をしみ込ませましょう。これを「なべ止め」といいます。
いもも野菜も、煮ている間は表面から少しずつ味を吸収し、中にしみ込んでいきます。このとき、内部の空気や水分が押し出されて真空状態になりますが、火を止めるとこの状態が終わり、煮汁が中に引き込まれるのです。さらに、表面と中心部の調味濃度に差があっても、放置しておけば自然と煮汁中の塩や砂糖が高い濃度から低い濃度へと移動し、まんべんなく味がしみ込みます。
<新常識>里いもや大根の下ゆでは必要ない
里いもを煮るときは、下ゆでをしてぬめりを取るのが一般的です。ぬめりがあると調味料がしみ込みにくいうえ、煮汁が泡立って吹きこぼれたり、火の通りが悪くなったりするためです。
しかし、最近の里いもはぬめりが少なくなったので、必ずしも下ゆでが必要なわけではありません。下ゆでをしたものとしていないものを比較しても、味の評価に差はありませんでした。
詳しく見てみると、下ゆでをしたものはぬめりが取れて味が中までしみ込み、見た目も上品に仕上がったのに対し、下ゆでをしていないものは中心部に味がしみていないものの、表面に調味料を含んだぬめりが絡んだ状態に。舌ざわりもなめらかで、噛むほどに中と表面の味の濃淡の変化が楽しめました。
このように、それぞれによさがあるため、下ゆでをするかしないかは好みや調理時間に応じて決めてはいかがでしょうか。
また、大根も下ゆでが必要と思われている野菜のひとつです。苦みを取り除くため、米のとぎ汁で下ゆでをするといいといわれていますが、最近の大根は苦みがありません。したがって、大根も下ゆでの必要がないのです。
里いもとイカは相性が抜群
イカのもつ独特のうま味は、たんぱく質が分解して生まれるグリシンやアラニンといったアミノ酸のほか、甘み成分のベタインです。これらは里いもの味と相性がよく、お互いを引き立てます。
また、イカのうま味成分の多くは煮汁に溶け出しますから、イカと一緒に里いもを煮る場合は、だしを使わなくてもいいでしょう。
大根は先のほうが辛く、筋っぽい
1本の大根でも、葉に近い部分と先の細い部分では味が異なります。葉に近い部分は甘みがあるものの、きめが粗いのが特徴です。一方、先の細い部分は筋っぽく、辛み成分が多く含まれています。葉に近いほうは炒め煮や味噌汁の具に、真ん中はふろふき大根に、先の部分は大根おろしなどに向いています。切り分けて売っている場合は、料理に応じて選ぶといいでしょう。
また、葉つきの大根は、葉をつけ根で切り落としてから保存します。葉をつけておくと、根の水分や味の成分を吸い上げるため、味が落ちてしまいます。
厚く切った大根は、表面が煮えても中まで火が通りにくいもの。そこで、厚みの3分の2程度まで十文字に切り目を入れると、火が通りやすくなります。日本料理は見た目を大切にするため、切り目は盛りつけたとき下側になる面に入れるようにします。これが「隠し包丁」といわれる所以です。
* * *
この続きは書籍『絶対に失敗しない料理のコツ おいしさの科学』をご覧ください。