読みものサイトのcakesで「アップのたびにバズる!」という、人気連載をご存じでしょうか?
こちらです。
ガンを宣告された写真家・幡野さんによる人生相談です。
このたび、この連載が一冊の本になりましたので、制作裏話的なことをちょこっと、こちらで紹介したいと思います。
「僕、ガンになりました。」
幡野さんは多発性骨髄腫というガンで、現代の医学では治すことが難しいそうです。
そんな病気を抱えていることを知りながら、なぜかみんな、幡野さんにありとあらゆる人生相談を持ち掛けるのです。
いったいどうして?
私(この書籍の担当編集者です)が幡野さんのことを知ったのは、写真家・ワタナベアニさんのSNSでした。
ある日、アニさんが写真家仲間である幡野さんにインタビューをして、それを記事にしていたのです。余命宣告をされたという幡野さん、猟師の顔も持つ幡野さんに、命と写真について問いかけ、それを文章にしていたのです。
例えば、
ーーー 残るのは肉と写真とどちらが重要でしょう。
写真も肉もどちらも必要なものですが、生きている時間よりも死後の時間の方が圧倒的に長いのでやはり写真の方が重要ですね。
こんなやりとりをしてるんです。インタビュアーもインタビュイーも、凄まじい。
ちなみにアニさんは、わりと激しめなことを、静かで愉快な文章で美しく書く方で、先日『ロバート・ツルッパゲとの対話』という、初めて知る人はギョッとするようなタイトルの本を出されました。タイトルはギョッとするけど、一度読むと、面白くてやめられなくなります。
その流れで、幡野さんのブログに行きつきました。幡野さんはブログで、治る見込みのないガンであることを、告白していました。
「僕、ガンになりました。」で始まる文章。
その中で私は、幡野さんが写真家であると同時に狩猟家でもあることや(その後鉄砲を処分し、狩猟家はおやめになります)、息子さんがまだ1歳半であること(当時)を知ります。
難しい感情や事情を言葉にして伝えることがとても上手であることも、ものの見方が“ぜんぜん教科書的じゃない…むしろ真逆なのに、良識的”であることも、知ります。
そこから私は、ブログをどんどんさかのぼりました。
つまり、ガンになる前の幡野さんの文章を。
のんきな撮影旅行の話や、動物を鉄砲で撃って自分で捌いて自分で料理して自ら食す様子や、そのときの動物の体温や、近所で撮った写真のことや、家族のこと。
すっかり私は、幡野さんの「書いていること」にハマりました。
ちなみに、そのブログはプラットフォーム自体が閉じてしまったので、今はもう見ることはできないのですが、私はそのテキストをコッソリ! かつ、ゴッソリ! とっておいてあります。
こんなふうに幡野さんの文章にハマった私が、こうして幡野さんの最新本をつくったうえで今言えることは、
ガンになる前から、幡野さんは幡野さんだった、ということです。
ご病気になられたことで、幡野さんの文章を読む人が増えたのは確かですが、きっとご病気になっていなくても、幡野さんの書く文章は、私たちの心に届いたのではないかなと、思うのです。
バズった
幡野さんは、自らのガンを告白したこのブログ以降、「バズり」ました。
その後ツイッターやフェイスブックにコメントを上げるたび、いいねもRTも大量につきました。
幡野さんは、「あなたが心配」&「あなたのためなのよ」的な自己満足の「感動ポルノ」を押し付けてくる人をきっぱり拒否し、「これで病気が治る」といかがわしい商品を勧めてくる人たちを否定しました。親族や友人でも、許しがたいことがあれば関係を断ち、医療従事者に対しても、納得できないことがあればストレートに指摘します。
そんな幡野さんの姿勢に、共感する人も応援する人も続々出てきたのですが、一方で、批判する人、喧嘩を売ってくるような人も出てきました。ちなみにここで面白いのは、共感であっても逆であっても、みんな「強い思い」で幡野さんの方を向いちゃうことなんです。
なんでしょうか、この巻き込まれ感。
気づくとみんな、幡野さんのことが気になって気になって仕方ないのです。ひとえにこれは、幡野さんの言葉の力だと思います。
バズりはじめてすぐ、幡野さんに人生相談をする人がぽこぽこと現れ、幡野さんはツイッター上で人生相談を始めます。
140文字の回答を、幡野さんはかなりの頻度で大量にアップしていました。私は、このツイッター人生相談を本にしたいとも思っていたので、相談件数を数えたことがあるのですが、多すぎて途中でやめました。400くらいまでは数えたでしょうか。
最初のうちは、似たような境遇にある人や、病気の人からの相談が多かった気がします。ところが気づいたら、就職の相談とか、恋愛相談とか、不倫の相談とか、家族の悩みとか、「なんでみんな、幡野さんにこの相談してるんだろう?」と不思議に思うような内容のほうが多くなっていました。
cakes連載始まる
さて、幡野さんは、そのブログをnoteへと移行して、文章を書き続けていました。今も書かれているのですが、これにも読者が本当にたくさんついています。
あるとき、noteの「クリエイターコンテスト」という企画があり、たくさん読まれたnoteの書き手として、幡野さんが選ばれました。
そこで出会ったのが、cakesの編集者・大熊さん(「大きな熊感」が皆無の、シュッとした編集者さん。”熊さん感”は幡野さんの方があります!)。
熊っぽくない大熊さんが、熊っぽい幡野さんに、cakesで連載をしましょうと声をかけ、そのときにツイッターの人生相談の過熱ぶりが話題に上がったのだそうです。
ちょうど幡野さんも「140字じゃ伝わらない」「もっと丁寧に答えたい」と思っていたこともあり、進化した人生相談として、cakesの連載が始まったようです。
熊熊コンビの相性はバッチリで、気づけば、
「cakesの記事で歴代ナンバー1のPVを獲得した、超人気連載!」
になっていました。
cakesでは使える文字数が増えたので、相談内容も回答も、長く深くなりました。
『なんで僕に聞くんだろう。』にも収録されていますが、幡野さんに寄せられる人生相談は次のような感じです。
「家庭のある人の子どもを産みたい」
「親の期待とは違う道を歩きたい」
「いじめを苦に死にたがる娘の力になりたい」
「ガンになった父になんて声をかけたらいかわからない」
「自殺したい」
「虐待してしまう」
「末期がんになった」
「お金を使うことに罪悪感がある」
「どうして勉強しないといけないの?」
「風俗嬢に恋をした」
「息子が不登校になった」
「毒親に育てられた」
「人から妬まれる」
「売春がやめられない」
「精神疾患がバレるのが怖い」
「兄を殺した犯人を、今でも許せない」……などなど。
すごくないですか? この相談のバリエーション。
ひとつひとつに幡野さんは、誠心誠意、応えます。
未来ある子どもの味方をします。
人を傷つけたり苦しめたりする行為を嫌います。
無駄なことを避けます。
「普通」を疑います。
当たり前に見える景色の中に、問題の根っこを見つけ出します。
ほとんどの人が「言いにくいから」と見て見ぬふりすることも、言葉にします。
一般的な感覚で言えば“常識的”とはいえない、でも「本当の常識」を言葉にします。
その結果――。
幡野さんが記事をアップするたびにPV数は跳ね上がり、幡野さんの記事を待つ人がどんどん増え、おかげでこうして、今回この連載を本にするチャンスをいただけたというわけです。
「石の上に三年」といいますが、「ケーキの前に数か月」という、ふかふかして甘い環境の中で、私はこの本に携わることができました。
みんなが「秒」で虜になる幡野さんのスーパーワード
実際、この本は、スーパーワードだらけ。
”背中を押してくれることばたち”があふれてるんです。
こうなったら、「推しメン」ならぬ、「推しワード」をチェックしておき、探しやすいようにしておこう。
そう思って、出来上がった本に付箋を貼ったり、マーカーを引いたりしていたら、こんな感じに…。
「探しやすく」するためにつけたさまざまな“しるし”が、もはや混乱の極み!
でも、この本を読んだ方なら、仕方なし、と共感していただけるのではないでしょうか。
どんな素敵な言葉が載っているのか、次回「こんなにあるぞ!スーパーワード!」をご紹介します。
そして、次々回の予告も。この本「装丁が美しい!」と好評をいただいておりますので、装丁の裏話や、本文ページ作りの裏話をしようかなと思います。
また、どうかお付き合いください。
(担当編集者 袖山満一子)
なんで僕に聞くんだろう。
ガンになった写真家に、なぜかみんな、人生相談をした。
「クリエイターと読者をつなぐサイトcakesで史上もっとも読まれた連載」
「1000万人が読んだ人気連載」が待望の書籍化!
「家庭のある人の子どもを産みたい」「親の期待とは違う道を歩きたい」「いじめを苦に死にたがる娘の力になりたい」「ガンになった父になんて声をかけたらいかわからない」「自殺したい」「虐待してしまう」「末期がんになった」「お金を使うことに罪悪感がある」「どうして勉強しないといQAけないの?」「風俗嬢に恋をした」「息子が不登校になった」「毒親に育てられた」「人から妬まれる」「売春がやめられない」「精神疾患がバレるのが怖い」「兄を殺した犯人を許せない」……
――恋の悩み、病気の悩み、人生の悩み。どんな悩みを抱える人でも、きっと背中を押してもらえる。
人生相談を通して「幡野さん」から届く言葉は、今を生きるすべての人に刺さる”いのちのメッセージ”だ。