小説『ホームドアから離れてください』2/6発売。
現役早大生による、衝撃のデビュー作。
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扉はどこかにきっとある 瀧井朝世
どうしようもない理不尽に巻き込まれた時、人は正しく行動できるだろうか。そもそも、何が正しい行動かなんて、誰にも分からない。
長篇小説『ホームドアから離れてください』は、大切な友達を助けられなかったことを悔いて引きこもりになった少年、ダイスケの物語だ。著者の北川樹は現役大学生、本作がデビュー作となる。主人公のダイスケの繊細な感性を的確な表現力で表すその筆力にまず驚いた。すぐさま引き込まれ、いつしか彼と一緒に傷つき、苦しみ、どこかにこの場所から抜けだす出口がないか、一緒にあがいていた。
中学入学と同時に柔道部に入部したダイスケだったが、初心者は彼とコウキの二人だけ。未熟ながらも練習に励み、少しずつ友情を育んでいった二人。だが、翌年の二月、コウキはマンションから飛び降り、一命をとりとめたのち転校。ダイスケは学校にいくのを止めた。彼らに何があったのか。第一章ではその過程が克明に描かれていく。ダイスケとコウキはもちろん、柔道部員それぞれの心理状態、顧問やコーチや担任教師の無理解を丁寧に刻み、単に決定的な悪者がいて何かが起きたという描き方をしていないところが非常に巧み。
第二章では、引きこもりのダイスケが、新聞記事で「空色ポスト」の存在を知る。新宿御苑の奥に設置されたそのポストに写真を投函すると、同様に投函した誰かの写真が届くというシステムだ。惹かれるものを感じたダイスケは写真を撮り始め、そして久々に外の世界への扉を開ける。そこには新たな出会いもある。それまでとはまったく別の場所で新しい自分を見出していく姿に、そうだね、学校だけが世界じゃないよねと、こちらまで救われる思い。ただ、どんな場所でだって予想外のことは起きるし、また、彼の心の悔恨が拭い去れるわけではない。そして第三章で……。
底抜けに優しい気持ちになれる一冊。今いる場所が息苦しくて、別の居場所の扉を探している人たちにそっと差し出したくなる。
瀧井朝世