モバイルゲームなどの分野で快進撃を続ける新興企業、アカツキ。その創業者で社長をつとめる塩田元規さんの記念すべき初著書が、『ハートドリブン』だ。合理的に正解を出せる時代は終わった。数字・計画・思考だけではなく、感情・直感・感性を研ぎ澄ますことが重要だ、と語る塩田さん。その独自の哲学が詰まった本書から、一部をご紹介します。
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人はより不合理に意思決定し始める
技術発展がもたらすもののもう一つの側面は、人の意思決定が合理性・論理によるものから、共感性・感情によるものにシフトしていくということだ。
人がより心の満足を求めていく中で、意思決定の方法も当然変わっていく。
僕らが子供の頃は、合理的で論理的であることが大切だと教育されてきた。でも、これからは自分の心に従って意思決定をすることが大切になってくると思う。
それは、人によって正解が変わってくるということ。周りから見ると、不合理な意思決定に見えるけど、その人にとっては正解という意思決定が増えてくる。合理性や論理は誰にとっても正しいというものを導こうとするけど、ワクワクするもの、好きなものは人それぞれだ。だから、その人の感情で意思決定をするようになる。
“働く”ことも機能的価値から感情価値へ
会社を経営していて思うことは、人材が集まるプロジェクトや企業の特徴は、意義があるかどうかということ。意義こそが人を動かす。企業でいえば理念だし、プロジェクトも意義の明確化が必要だ。そして、その想いに嘘がなく、信じて働ける空気感が大切だ。意義に共感して働く時、人は感情的に満たされていく。
“働く”ことも、機能的・便益的価値から、感情価値へシフトしていると思う。
給与や福利厚生などの機能的な価値ももちろん大切だけど、一定水準が満たされると、相対的にワクワクする感情価値の高いプロジェクトの方に人が集まるようになっている。
給与や福利厚生で判断すると、会社に残ったほうが合理的だけど、なんかワクワクしないから他の会社に転職するという人も増えていると思う。今は、フリーランスでもお金を稼げる時代になったし、起業もどんどん身近になっている。働き方の選択肢が増えてきた。会社が提供する機能的価値は、会社に所属しなくても得られるようになってきた。
これまで、社員と企業は機能的価値と引き換えに労働を提供する取引関係が多かったと思う。でも、働き方の選択肢が増える中で、社員と企業とのパワーバランスも関係も変わってきた。これは優秀な人材だけの話じゃない。より多くの人に選択肢が増えて、会社との関係を見直すタイミングになっている。
だから、プロジェクトのリーダーや経営者は、働く人の感情価値も大切にするべきだ。
ワクワクするプロジェクトや、一緒に働いていて楽しい仲間とのつながり。そういう目に見えない報酬を大切にしている会社に人材は集まってくると思う。
心を中心とした関係性の再構築。それは、共感を元にした関係を生み出す。企業も個人もそれぞれが自立し、心でつながれる関係だ。ありのままの自分で、プロジェクトと人とがつながれる場所。それって本当に素晴らしい!
リーダーは自分の宝物を思い出そう
そのために、プロジェクトのリーダーや経営者、何かを始めたい人は、自分の心に従う勇気を持つことがスタートだ。人によって共感することは違う。みんなに好かれようとする必要はない。でも、自分の本心でスタートする必要はある。それが、共感を呼ぶからだ。
ワクワクとかドキドキとか、子供っぽいと言われるような青臭いこと。
大人になって切り離してきた、麻痺させてきた自分の心を大切にしよう。
説明できる建前じゃなくていい。理解されなくても、自分の宝物を思い出そう。
子供のようなワクワク感を取り戻していく。それが、人が集まる会社・プロジェクトを生み出す。だから、感情や心がビジネスの成功の鍵になるんだ。
「自分が切り捨ててきた感情や心はなんだろうか?」