モバイルゲームなどの分野で快進撃を続ける新興企業、アカツキ。その創業者で社長をつとめる塩田元規さんの記念すべき初著書が、『ハートドリブン』だ。合理的に正解を出せる時代は終わった。数字・計画・思考だけではなく、感情・直感・感性を研ぎ澄ますことが重要だ、と語る塩田さん。その独自の哲学が詰まった本書から、一部をご紹介します。
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本当に「欲しい」ものなのか?
「KATSUYA♡学院」という学びの場で「偽ダイヤ」という言葉を教わった。
偽ダイヤとは、一見、その人を輝かしく見せるもの。
非常にわかりやすいたとえでいえば、世間から賞賛される大学、企業、資格、役職、年収、etc。また、すごいと言われている人とつながりを持つことなどもそうだ。誰かや何かによって自分の価値を証明しようとする。もちろん入りたい大学、企業に入ることは素晴らしいことだし、全てが偽ダイヤになるわけではない。
伝えたいのは、自分の深いところでは「欲しい」と思っていないのに、「これさえ手に入れば」自分の価値が上がると思って偽ダイヤを求めてしまっていないだろうかということだ。いつの間にか「外側の何か=自分の価値」だと思っていないだろうか。外側の何かは、あなたの本質の素晴らしさとは関係ないし、生きるためのツールに過ぎない。でも往々にして、僕たちは勤めている企業、役職や資格などによって、その人の価値を判断してしまいがちだ。だから、その偽物のダイヤが大切なものだと思ってしまう。
でも、本当に欲しいと思っていないものを追い求め続けるのは苦しいことだ。
僕自身、人の期待に応えようと随分頑張ってきた。結果や価値を出すことが自分の存在理由だと思い込んで生きてきた。でも、そこから降りることでようやく、どんな自分もいていいんだと僕自身が認められるようになってきた。
素晴らしい人生を阻む四つの罠
『ビジョナリー・ピープル』(ジェリー・ポラス、スチュワート・エメリー、マーク・トンプソン著)という本をご存知だろうか。『ビジョナリーカンパニー』の著者チームが、企業ではなく人物に焦点を絞り、継続的な成功を成し遂げる人に共通の要素を分析した本だ。
「20年以上にわたり活躍し続けて実績を残した人」をビジョナリーな人として定義し、分析している。
この本の中で、ビジョナリーな人の本質的な要素は、自らの価値観に誠実に生きていて、意義・思考・行動のスタイルに一貫性があることだと表現されている。彼らは、やっていること自体に情熱を持っている。情熱を持つために大切なことは、自分の生きがいについて語る小さな内側の声に耳を傾けることだと書かれている。思考じゃなくて自分の心の声を聞くということだ。
一方で、人生の成功への道には四つの罠が存在していることも書かれている。
それは、キャリアへの固執、BSO(Bright Shiny Object)への憧れ、コンピテンスの誘惑、そしてOR(オア)の呪縛、の四つだ。
キャリアへの固執とは、ワクワクすることは、キャリア形成の役に立たないという考えだ。ワクワクはお金にならないという声だ。しかし、ビジョナリーな人は素晴らしいキャリアを築いている人が多いが、それを目的にして固執してはいない。
BSOとは、まさに偽ダイヤのことだ。明るく輝いているように見えるもの。たとえば、高級車、名声や権力、自分は他の人よりすごいということを示すあらゆるコンテンツだ。ビジョナリーな人の中にはBSOを手にしている人が多いが、これを目的にしている人はいない。誰かよりすごいということを証明するものは、手に入れた一時は満足感を得るが、世界にはもっとコンテンツを持っている人がいる。だから、常に劣等感を抱え、人と比較するレースから抜けられなくなる。
コンピテンスの誘惑は、人間は合理化しようとする生来の癖があり、他人が設定した目標ですら合理化してしまうことだ。
そして、ORの呪縛は、どちらかしか選べないという思考だ。自分自身の夢を追うのか、それとも(OR)周りの人たちを喜ばせるのか、というトレードオフの概念の中にいることだ。ビジョナリーな人々はORの呪縛を乗り越えて、ANDを考える。自分もワクワクしながら、周りの人の力にもなる道を選択する。
あなたが今努力して手に入れようとしているものは、もしかしたら、偽ダイヤかもしれない。
自分が求めているダイヤが本物か偽物かを見極める手段を、著者はシンプルに一つの問いで表現している。
「もし、自分が大切だと思っている人が全く関心を寄せなかったとしても、それを手に入れたいと思うだろうか?」
少し時間をとって問いかけてみてほしい。