モバイルゲームなどの分野で快進撃を続ける新興企業、アカツキ。その創業者で社長をつとめる塩田元規さんの記念すべき初著書が、『ハートドリブン』だ。合理的に正解を出せる時代は終わった。数字・計画・思考だけではなく、感情・直感・感性を研ぎ澄ますことが重要だ、と語る塩田さん。その独自の哲学が詰まった本書から、一部をご紹介します。
* * *
10日間の体験で学んだこと
ヴィパッサナー瞑想での10日間はすごかった。正直、人生のトップ3に入る大変さで、何度も途中でリタイアしようと思った。
※ヴィパッサナー瞑想:インドの最も古い瞑想方法の1つと言われている。
瞑想しながら自分の体の感覚を観察するんだけど、心と体は一致している、心の状態は体に表れるという考えがベースになっている。
人によって違うかもしれないが、僕の場合は体に意識を何日も集中すると、体が電気のようなビリビリとした繊細な感覚に包まれた。体が波動のように感じられて、溶けていく。一方で、寂しさや悲しみといった心の不浄が出てきて、体に激痛が走る。自分の心の苦しみが痛みとして体に表れてくる。激痛だけど、瞑想中はStrong determination(強い決意)で、体を動かさない。
面白いことに、痛みをなんとかしようという意識にとらわれると、痛みが増してくる。でも、痛みをただ見つめているとそれは消えていく。気持ちのいい感覚も痛みも、どちらも同じものだ。快楽に流されるのでもなく、不快を解消するのでもなく、自分の中心にいてただ見つめる。
いつだって、真ん中が一番大切。二元論じゃなくて、中心にいる。陰陽で「陰極まれば陽となり、陽極まれば陰となる」という言葉があるが、その通りどちらにも偏らず、真ん中にいること。それを頭ではなく、10日間の体験を通して学んだ。
それは、僕が以前、ポジティブな感情はよくて、ネガティブな感情はダメだと思っていたことと同じことだ。どちらもあるがまま、その感情を捉えてみる。そうすると自分の真ん中で生きていけるようになる。それを深く体験した時間だった。
寂しさによって知る自分の内側のエネルギーの大切さ
そして、10日間誰とも話さない中で襲ってきたのは、寂しさだった。もちろんスマホも使えない。普段自分がいかに寂しさを紛らわすために、SNSやネットに時間を使っているかということをまざまざと実感した。
でも、瞑想も後半に入ると、不思議とそういう感覚は消えていった。自分の真ん中、根っこにつながっていく感覚が増し、自分の内側のエネルギーを使えるようになる。誰かからエネルギーを奪うことなく、自分がまっすぐ自分の中心で生きる感覚はこういうものなんだなと思った。
最後に感じる大きな愛とつながり。それを日常世界でも表現したい!!
最後の日に、生きとし生けるもの全てに祈りを捧げる時間があった。僕も、心からの感謝と愛を持って祈ることができた。全てのものが幸せであれと頭の中でも思っていたけど、本当に心から祈ることができたのは、これが初めてだったのかもしれない。それくらい深く感謝できた。
そして、僕はこの瞑想の素晴らしさだけでなく、この場の全てが寄付とボランティアで成り立っていることに感動した。10日間、食事や掃除をしてくれる人は仕事を休んで、ボランティアで来ている。
そのボランティアの人が最終日に、ボランティアをさせてくれてありがとうって泣いていた。誰かに貢献することで、自分自身が何か大切なものを受け取って、感動している。その姿を見て、人の本質は愛なんだなと感じた。バーニングマンで得た感覚がよみがえってきた。
でも、もう一方で、思ったことがある。
ヴィパッサナー瞑想に来るのが2回目以上の人も多い。終わった後に彼らと話していたら、「ヴィパッサナー瞑想に来ると、自分の愛につながっていられるし、この場のエネルギーが素晴らしい。でも、日常生活に戻ると元に戻ってしまう。だから定期的にここに来るんだ」という声があった。
そのことはすごくわかる一方で、日常の中で本来の自分でいられない世界はどこかおかしいと、改めて思った。
ビジネスの世界で、切り捨てられやすいものがここにはある。バーニングマンにもあった。僕は、ビジネスの世界でも、日常の世界でも切り捨てられたものを取り戻していく。本来の自分でいられる場所を増やして、人が自分の愛を大切にできるようにしたい。
それに自分の人生を捧げたいと思った。
改めて、ハートドリブンな世界をみんなで創ることを決めた!