モバイルゲームなどの分野で快進撃を続ける新興企業、アカツキ。その創業者で社長をつとめる塩田元規さんの記念すべき初著書が、『ハートドリブン』だ。合理的に正解を出せる時代は終わった。数字・計画・思考だけではなく、感情・直感・感性を研ぎ澄ますことが重要だ、と語る塩田さん。その独自の哲学が詰まった本書から、一部をご紹介します。
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もっと「余白」をつくろう
これからの時代、無駄なことも価値を持つ。僕は、大切なものを三つの“無”で表現している。“無駄・無価値・無邪気”なことだ。
ビジネスにおいては、最適化しすぎることが仇になることがある。一見無駄に見えるが、子供のようにワクワクすることが価値を持つ時代だ。
たとえば、ゲームもKPI分析してKPIに合わせたチューニングをしすぎると、結果、売上が下がるということが起こる。一方で、KPIのことを考えず、チームメンバーがワクワクするような機能をゲームに入れると、それが喜ばれてKPIが伸びるということも発生する。
合理的には説明できないことかもしれない。でも、ワクワクする、なんか面白いということがファンを作る。これからの時代、「意味があるんですか?」と切り捨てられていたものに価値が宿る。無駄で無価値と言われていたけど、無邪気に楽しめること、そういうものが目に見えない価値になる。感情価値を作る。
でも、その価値は見えにくいものだから、会社や組織の中では大切にしづらいことが多い。
だから、組織の中でも、積極的に無駄・無価値・無邪気なことをやって、それが許される文化を作ることが大切だと思う。そういう余白が組織には必要だ。
ここでは、無駄で無邪気な余白作りのための、アカツキでの取り組みをいくつか分かち合おう。
「雑談」は大切な時間
これは、アカツキの大切な考え方だ。メンバーも普段はものすごく忙しい。僕だって、ミーティングが立て込んでいてトイレに行く時間すらないこともよくある。だからこそ、雑談をする余白や時間はすごく大切だ。
一見無駄な会話から、感情につながれたり、面白いアイデアが生まれることも多々ある。アカツキのオフィスには「SHINE LOUNGE(社員ラウンジ)」とネーミングした広いエリアがあるが、そこはコーヒーを飲みながら雑談しやすい空間になっている。
また、アカツキでは隔週で役員が集まるグループ経営会議をやっているが、2時間のうち最初の1時間くらいは雑談している。チェックインの流れで話がどんどん膨らんでいく。アジェンダも大切だけど、アジェンダを気にせず、それぞれのことを分かち合ったり、思ったことを好きに話す時間は大切だ。会議の後半になって、誰かが「今日のアジェンダなんだったっけ?」っていうことも多々ある。
雑談の素晴らしさは、すぐに正解を出そうとせずに、一緒に問いに深く潜っていけることだ。雑談の時間に、気になっていることや、未来についての話などが出てくる。結果、雑談の中で大きなことが決まることも多い。
取締役会でも雑談をよくする。知人の経営者に僕が楽しそうにアカツキの取締役会の話をすると驚かれる。最近感じていることや、悩み、大切にしたいことがざっくばらんに語られる。僕自身、アカツキの取締役会は楽しい! 社外取締役や監査役の人といった色んな視点からのフィードバックを得ることができる。
もちろん監査やガバナンスの観点は大事にしているが、コントロールが存在しない。信頼関係の中で、本質をずばっと議論できる。結果、ものすごく効率のいい取締役会になっていると思う。
雑談という一見無駄なものが、結果として実はものすごく効率的に機能していると思う。