昼過ぎのタリンのクリスマスマーケット。人出はまだそう多くなかった。手袋やマフラーの屋台を中心に、オーナメント、キャンディ、ホットワインを売る屋台が見えた。
じゃがいもと一緒にグリルしたソーセージも売っていた。血合いの黒いソーセージ(ヴェリ・ヴォルスト)はエストニアのクリスマス料理なのだそう。
子供用の回転ブランコもあった。小さいから見ているだけで目が回る。子供たちがはしゃいでいた。
帰りの船は19時半なので、1時間前にターミナルに戻るとしても時間は充分にある。クリスマスマーケットはやはり暗くなってからがきれいなので、それまで旧市街をぶらぶらすることに。
エストニアの民芸品は素朴でかわいらしい。鮮やかな花の刺繍をほどこした靴やベルト。自分の年齢を考えるとかわいすぎて身に付けられないのはわかっているが、手袋くらいかわいすぎてもいいかな、と自分用に手編みの手袋を買うことにする。
手編みの商品を売る店で、若い女性が店番をしながら編物をしていた。「ここにあるのは、あなたのデザイン?」と聞くと、そうだという。
パッと目についた手袋があった。黒地に赤い花の模様で、編み方も凝っている。
これ欲しい!
でも、念のため色違いや他のデザインも物色する。しばらくしてわたしは思った。
最初にいいと思ったものでいいじゃないか。
もっといいものがあるかもしれない。もっと好きなのがあるかもしれない。探しているうちに違うものを選ぶことがある。それはそれで気に入ったりもするのだけれど、ピンときたものを買う楽しさを手放しているともいえる。今後の人生、ちょっとしたものくらい、もう直感で買おうぜ、わたし! なぜかそんな気持ちになり、最初に気に入った黒地に赤い花の手袋を急いで買った。大切に使おうと思う。
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仕事の打ち合わせ中、まったく違うことを考えてしまう。ひとり旅に出ても、相変わらず誰とも触れ合わない。無地の傘が欲しいのに、チェックの傘を買ってくる。〈やれやれ〉な大人に仕上がってきたけれど、人生について考えない日はない。そんな日々のアレコレ。
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