この度、大人気連載「アルテイシアの59番目の結婚生活」が文庫『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』として発売されました!ここでは発売を記念して、結婚生活のリアルについても書かれている我らがカレー沢薫さんに書評頂きました。
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「離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由」
何も知らない人がタイトルだけ見たら「いろいろ不満はあるけどやっぱ結婚っていいよね! 寝取られダブルピース!」のようなノロケ本、もしくは「おっと旦那デスノートですか?」という下世話な好奇心を刺激する本、と思ったかもしれない。
残念ながら本書はそんなチャチなものではない、もっと恐ろしいものの片鱗どころか、本体が横たわっている。
まず冒頭から、ポイズンだった母親が変死した話からはじまる。
ちなみに反町隆史だったという意味ではなく毒親だったということだ。
その後はアナルガバ太郎な夫氏との結婚生活、ケツ毛の脱毛、子宮全摘出手術などほっこりエピソードが続く、鈴木宗男との夢小説が挟まれているのも夢豚としては「得した」としかいいようがない。
しかし、油断したところで、今度は同じくビーチボーイズだった父親が飛び降り自殺をする。
ちなみに今再確認したところ、アルテイシアさんの夫はアナルガバ太郎さんではなく、アナルガバ夫さんの間違いであった、訂正してお詫び申し上げる。
追いうちをかけるように、父親の残した多額の借金まで背負うことになり、さらには双子の弟は全てをアルさんに託して失踪するというおまけつきだ。
DIO様でさえ「もう一回何が起こったか説明してもらえますか」とポルナレフしてしまうようなことが次々と起こっているのである。
だが本書のスゴイところは、これだけのことが起こっていても「笑える」のだ。
「人の不幸で腹がよじれる、サイコパス必読ギャグエッセイ!」というわけではない、純粋におもしろくて笑えるのだ。
普通これだけのことが起こったら、愚痴や恨み言、自己憐憫だらけになってもおかしくないし、何だったら全ページポエムが書かれていても責めることはできない。
だが、アルさんはとても笑えないようなことを笑えるように書き、そして何より「役に立つ」文章として世の中に発信し続けているのだ。
余りにも軽妙に書かれているので「この人は何が起きても全くのノーダメージなのでは」「スタンド名を教えてくれ」という錯覚すら覚えるが、絶対そんなことはない。
深く傷ついた上でそれでも読む人、特にこれからを生きる若い人の糧になることを書いているのだ。
「尊い」この言葉を二次元の男以外に使うことはまずないのだが、今日は特別だ、受け取れ、そして私の見ていないところで捨てろ。
「とりあえず全員死ね」と思いながら書いている私とはエライ違いだ。
女が生きていく中で誰もが直面する、怒りや悲しみ、不安に対しどう対処していったら良いかのヒント、そして時には代わりに怒ってくれるのが本書だ。
冒頭の母親の死を悲しめないことに対し「もらってないものは返せない」という言葉は毒親を持つ人以外も救う「小陰唇、燃えていませんか」に次ぐ、今作屈指の名言であると思う。
もちろん、子宮を全摘出したり、親が突然、変死や自殺をかました時、さらに2000万の借金をひっかけられた場合どうしたら良いか、もわかる実用書でもある。
アルさんが、これだけの経験をしながらポエムを書かずにこれだけ有益なことを書けるのはやはり、アナル&ガッバーナな夫殿の存在が大きいと思う。
ガバ夫さんと出会い結婚するまで、アルさんはサムライミ版スパイダーマンのメリージェーンの如く、メンヘラクソビッチだったらしい。
だが決して「どれだけ不幸でもこういう男と結婚すれば女は幸せになれる」ということを言いたい本ではないのだ。
アルさんの夫殿は、とにかく度量が広く、何があっても動じず受け入れ、なおかつ常に意表を突く返答をしてくれる。
それが非常に面白いのだが、人によっては「てめえ非常時に何言ってんだ」と苛立ってしまうかもしれない。
それを「おもしれー男」と、夢小説に出てくる跡部様のように思える感性をアルさんが持っているからこそ成り立つ関係である。
つまり自分を安定させてくれる、ぴったり合うものを見つけるのが大事という話である。
それは夫、まして人である必要ですらならなく、仕事や趣味、ペット、もちろん推しでも良いのだ。
それが「結婚」しかないと思い込んで、合わない相手と結婚したら人生はますます不安定になってしまう。
そして、自分に合う人生の重しを見つければ、これだけことが起こっても狂を発さずに楽しく生きていけるのだという、成功例を示しているのもこの本の特徴だ。
ちなみに本書には夫殿の名言が数多く記されている。
どれも良いのだが、一番を選ぶとしたらやはり「借金とりが来たら、刀で首をはねればよい」だろう。
やはり「大丈夫」とか「なんとかなる」とか漠然としたことを言われてもこちらは不安になるばかりだ。
「具体案」を提示することで、どれだけこちらが安心するかをよくわかっていらっしゃる。
ただ、その言葉に「この人と結婚して良かった!」と思えるかはその人次第であり、人によっては「まずお前の首を胴からさよならbyebyeさせてやる」と思うかもしれない。
やはり人生はマッチングだ、自分にあう人、あう物を見つけ、あうことをするのが幸せへの道だと良く分かった。
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アルテイシアさんの最新刊『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』が発売中です。アルテイシアさん長年の憧れ、田嶋陽子さんとの対談も特別収録。爆笑フェミニスト宣言エッセイ、ぜひお楽しみください。
アルテイシアの59番目の結婚生活
大人気コラムニスト・アルテイシアの結婚と人生にまつわる大爆笑エッセイ。
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