タリンの旧市街地の説明によく使われているキーワード。それは「中世の面影」や「おとぎ話の世界」である。城壁、塔、石造りの壁。時代は違うが、映画「千と千尋の神隠し」をヨーロッパ編でやるならこの場所がぴったりだ。古いけど美しい。かわいらしいけどちょっと怖い。
そう、ちょっと怖いのがおとぎ話的なのだと思う。
土産物屋が並ぶ商店街から一本小道に入る。静かで人通りもない。なのに何かに見られているような気がする。古い木の窓や錆びた鉄格子がついた地下室の窓。角を曲がる前は一瞬躊躇するのだけれど、曲がってみれば美しい石畳の街がつづいている。
さてさて、クリスマスマーケットである。ラコヤ広場のクリスマスマーケットは、立ち止まらずに見て回るだけならたぶん10分もかからない。屋台の数でいうなら小規模である。
けれど、暗くなるにつれてどんどん人が集まってにぎやかに。大きなクリスマスツリーの前ではたくさんの人が写真を撮っている。人々の吐く息と、食べ物の屋台からあがる白い湯気がふわっふわっと咲くのが見えた。
ノンアルコールのホットワインがあったので買ってみた。テーブルに干しぶどうやカットしたオレンジが置いてあり、お店の女の子がホットワインに入れるよう言ってくれた。ほのかな酸味。香辛料でちょっとスパイシー。両手を温めながらマーケットをゆっくりと歩く。シベリアンハスキー柄のミトンを見つけてひとつ買った。
そうだった。チョコレートドリンクを飲みに行かねば。前回時間がなくて寄れなかったカフェがあったではないか。
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仕事の打ち合わせ中、まったく違うことを考えてしまう。ひとり旅に出ても、相変わらず誰とも触れ合わない。無地の傘が欲しいのに、チェックの傘を買ってくる。〈やれやれ〉な大人に仕上がってきたけれど、人生について考えない日はない。そんな日々のアレコレ。
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