ブランドプロデューサー柴田陽子さんの新刊が2月20日に発売しました。
彼女の人生に迫り、成功の秘訣や仕事術を、ひも解いたのが、『勝者の思考回路 成功率100%のブランドプロデューサーの秘密』。
柴田さんは、名だたる企業のトップから指名されるブランドプロデューサーです。
その活躍は非常に華やかで、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)でも話題になりました。驚くことに、柴田さんは、独立して以来、「仕事をとるための営業をしたことがない」そうなのです!
それでも仕事の依頼が次々と寄せられています。そして着実に実績を残してきました。その秘訣を明かした本書より、試し読みをお届けいたします。
第3章「勝者の思考回路」を生んだストーリー~仕事に就いてからの私~より
「コンセプト」は、最強の武器である。
□ 未経験で、大きなプロジェクトを任されたら?
□ 行き詰まったときは、街中での会話からヒントを拾え!
□「自分の居場所がない環境」に置かれたとき、無理だと諦めるか?「自分以外、他の人にはできないコンセプト」を見つけて勝負するか?
□ コンセプトを強化するのは「イメージターゲット」と「リアルターゲット」の設定。
□ キーマンの心を動かすのは、「際立ったコンセプト」。
今の私をつくってくれた会社員時代の仕事をひとつ挙げろと言われたら、港区・麻布十番にあった「レインボー・ロール・スシ」の開店事業に尽きるでしょう。
ネイルサロンの仕事を2年くらい続けたのち、私は本社に戻され、新しくできた事業開発部に配属されました。驚くことに、会社が新規に経営に乗り出すレストランの「全部」が、私に任されるというのです。簡単にまとめるとこういうことです。
・出店企画書をつくる。
・役員会で企画のプレゼンをし、OKをとる。
・物件を探し、家賃交渉して契約まで持ち込む。
・物件に合わせて店内のデザインをインテリアデザイナーに依頼する。
・デザイン通りに工事が進捗するよう見届ける。
・料理や飲み物のレシピや価格、素材の仕入れ先を決める。
・働いてくれる人を募集し、面接し、教育する。
・オープンを告知し、開業を宣伝する。
・私自身も店頭に立って働き、流行らせる。
これらの要素の中には、細かい仕事がもっと複雑に大量に存在します。しかも、どんな局面においても予算は守らねばなりません。
それを全部やるなんて、私には絶対に無理だと思いました。
私はもともと秘書希望ではなく、飲食店事業の現場に関わりたくてその会社に入りました。ようやく、そのチャンスが巡ってきたこと自体は嬉しかったけれど、何もかもやっていく力が自分にあるとは思えません。
それになにより、レストランはネイルサロンとは動かすお金の桁が違います。失敗したら、会社やほかの社員たちにどれほどの迷惑をかけてしまうだろうという不安に押し潰されそうになりました。
私はひどく心配性で、今でもクライアント企業には「本当に私どもでお役に立てるのでしょうか? ほかに適任者がいるのではないでしょうか?」と確認せずにはいられないくらいなのです。
悩み抜いて辞退を申し出ると、社長は言いました。
「僕は柴ちゃんを見込んで『あなたならやれる』と伝えました。それを断るほど、あなたは偉かったんですか?」
「偉くないです」
「では、どうするのが正しい態度ですか?」
「一生懸命、頑張ることです」
こうして辞退は取りやめたものの、何から手をつけていいのかわからず途方に暮れている私を、ビール会社の知人がある店の開店レセプションに連れて行ってくれました。そこで、外食産業で活躍している人をたくさん紹介してくれたのですが、みんな派手でイケイケで豪腕な印象。しかも、男社会の匂いがぷんぷんします。
想像するに彼らは、夜な夜なラウンジに集まりお酒片手にトレンド情報を交換し合い、店の経営に役立てている様子。でも、それと同じことは私にはできません。
やはり無理だ。今なら引き返せるかもしれない……。暗い気持ちで過ごしていたある日、私の前を歩いていたOLらしき女の子たちが交差点で信号待ちをしながら相談しているのが耳に入りました。
「今日の夜、何食べようか」
「どこ行く? この間カットソー買っちゃったから、あんまりお金ないんだよね」
私はそのときはじめて、自分がやるべきことが見えたのです。
「そうだ。私と同年代のこういう女の子たちがお金を出して来てくれるレストランを、私がつくればいいんだ。雰囲気が素敵で、デートでも使いたくて、美味しいけれど高価すぎない店を。あの男社会の一員にはなれなくても、私ならではのお客様目線を貫けば、彼女たちが喜んでくれる店がつくれるかもしれない」
すると、どんどんイメージが湧いてきました。
ニューヨークからやってきた、カジュアルでおしゃれなロール寿司の店。
イメージターゲットは、チャイニーズアメリカンのアレックス。
アレックスは、私の頭の中でつくりあげた存在で、ニューヨーク生まれで金融機関に勤めている29歳。麻布十番に住んで会社には自転車で通っている。ある金曜日、家で短パンとTシャツに着替えてその店を訪れる。そこに不動産関係の友人がパリッとしたスーツで現れ、久々に会ったアレックスとハグを交わす。
一方で、リアルターゲットは、「自分も彼らの仲間でありたい」と憧れて集まってくる人たち。主に、私と同年代のおしゃれに敏感なOLたち。
こうして湧き上がってきたイメージに基づいて、店内の雰囲気、供される飲食物、流れる音楽、スタッフの対応など、詳細なコンセプトを徹底して詰めていきました。
役員に提出するためのコンセプト資料だけでも6種類つくりました。
続くすべての仕事においても、「これでいい」と安心できるラインなどなく、私にできることを限界までやっていくしかありませんでした。
たとえば、物件の獲得について。西麻布にふさわしい空き物件が見つかったとき、すでにライバルが数社いました。どこも、うちよりもかなり高い賃料を提示しているようで、そのままではとうてい勝ち目はありません。
ただ、オーナーが店のコンセプトについて知りたがっていたのは、私にとってひとつのチャンス。その物件はマンションの一階にありました。一階にどういう店が入るかによって、マンション全体のイメージも変わる。素敵な店が入っていれば、部屋を借りたいという人も増える。だから、家賃がいくら取れるかということ以上に、どういう店をつくりたいのかが重要だとオーナーは考えているようでした。
そこで私は、一切手を抜くことなくコンセプトを語りました。
同時に、オーナーのバックグラウンドを知る努力もしました。私のような立場にあって並み居る強者たちと闘うためには、少しでもオーナーに対する理解を深め、信頼関係を構築していくことが必須だと思ったからです。
* * *
柴田さんにも「はじめて」があり、その中でどう考え、動いたのかはとてもためになります! 私だから提案できることをみつけていくことで、糸口が見つかるかもしれません。
次の更新は3月24日(火)。お楽しみに。
勝者の思考回路の記事をもっと読む
勝者の思考回路
柴田陽子さんの『勝者の思考回路 成功率100%のブランドプロデューサーの秘密』が刊行されました。
柴田さんは、名だたる企業のトップから指名されるブランドプロデューサー。
その業績は非常に華やかで、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)でも話題になりました。
なんといっても驚くべきは、柴田さんは「独立して以来、仕事をとるための営業をしたことがない」ということ。
それでも仕事の依頼が次々と寄せられています。そして着実に実績を残してきました。
そんな彼女の人生に迫り、成功の秘訣を、ひも解きます!