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生命はなぜ生まれたのか

2020.03.31 公開 ポスト

地球誕生からわずか6億年…すでに原始生命が誕生していた?高井研

生物はいつ、どこで、どのように誕生したのか? 自分の祖先をずっとさかのぼっていくと、一体どこに行き着くのか? そんな想像をしたことのある人は、きっと多いことでしょう。地球微生物学者、高井研さんの『生命はなぜ生まれたのか』は、生物学、そして地質学の両面から「生命の起源」に迫った、スリルあふれるサイエンス本。本書の中から一部をご紹介します。

*   *   *

「ジルコン鉱物」が教えてくれること

地球で見つかっている最も古い地質記録は、オーストラリア西部のジャックヒルズの堆積岩中に存在するジルコン鉱物である。

(写真:iStock.com/scyther5)

この鉱物中に含まれる鉛とウランの同位体を用いた年代測定により、そのジルコン鉱物自体が約44億年前に生成されたものであること、さらに鉱物中の酸素及びハフニウム同位体比(同位体比というものの説明は後述)、チタン含量によるジルコンの生成温度予測の結果から、約44億年前の鉱物生成時の地球表面温度が予想より遥かに低いこと、大陸地殻と海洋地殻の存在、そしてプレートテクトニクスの存在が示されている。

特に、ジルコン鉱物中の酸素同位体比の結果は、ジルコン鉱物が200℃以下の低温の熱水変質を受けていた可能性、つまり地球表面に液体の水(海洋)が存在し、低温での水と岩石の反応が起きていたことを示す証拠と考えられている。

これらの研究以前には、40億年ぐらい前までの地球の地表はマグマオーシャンと呼ばれる千数百℃を超える灼熱の世界だったと考えられていた。またのちほど述べるように、地球誕生から40億~39億年前までには、いくつもの隕石や微惑星が衝突し、そのたびに全球的あるいは部分的なマグマオーシャン状態が続いたと思われていた。

この地球誕生からの約6億年は、このような大規模な地球の表層の融解があり、その時代の岩石はほぼ現在の地球に残されていないために、「失われた6億年」、「冥王代」と呼ばれてきた。しかしながら、これらの研究により、約44億年前にはすでに海洋と大陸が原始地球に存在すること、また地球表層が冷却しプレートテクトニクスが始まったことの可能性が示されたのだ。

以前は、地質学の分野で「冥王代」(英語ではHadean)なんて言葉を使ったら「あーうさんくさい人ね」と思われたらしい。しかし現在では、冥王代(40億年以前)はもはや最も重要な地球科学プロセスの始まった時代として受け入れられつつある。私も「生命の誕生と最古の持続可能な生態系の始まり」は冥王代で起きた可能性が高いと信じている。

ただし、最古の持続可能な生態系の始まりの時については、次に述べる不確定要素に大きく依存するのだ。

いつ最後の巨大隕石が衝突したか

月の誕生後、45億数千万年前に、ほぼ現在の地球と同じ大きさの原始地球ができあがり、最速約44億年前には、地表が冷えて海と大陸ができたと仮定しよう。

(写真:iStock.com/MARHARYTA MARKO)

この段階で、生命を誕生させる準備(生命の材料や部分的なシステムを創り上げる化学進化の段階)が始まったと考えてよい。いやもしかすると、その後速やかに生命が誕生しても決して不思議ではないとも考えられる。

しかし、この時期は、ノストラダムス的に言えば、「恐怖の大王」、つまり隕石、しかもこぶし大クラスのチンケなものではなく、直径100キロを超えるものが、どんどん地球に降ってくる隕石重爆撃期と呼ばれる時代であった。

例えば、直径500キロを超える隕石が1個衝突すると、現在の地球と同じ量の海洋がその原始地球に存在していたとしても、その海はすべて蒸発し、海がなくなった地表は、100年程度、千数百℃を超える灼熱のマグマオーシャンになったと推測されている。

実際にこのような巨大衝突が、どれだけ起きたのか、いつまで起きたのかは、当時の地質学的記録(岩石)が残っていないのでわからない。しかし、月の表面に残された巨大な隕石衝突のクレーターの規模、数、その年代から、月にどれぐらいの大きさの隕石が、どれだけたくさん衝突したかを知ることができ、そしてその規模と頻度から、月と地球の大きさに比例した隕石確率頻度を予想することができるのだ。

その確率から言えることは、たとえ、約44億年前には、地表が冷えて海と大陸ができ、超原始的な生命が海の底のほうにピクピクしていたとしても、少なくとも何回かは、隕石の衝突によって、高温の岩石蒸気とともに、跡形もなく消し飛んでいったはずなのだ。

しかし、それがいつなのかは、わからないのである。もし最後の巨大隕石衝突が、××億年前とはっきりわかるなら、その年代がほぼ、生命の誕生と最古の生態系の始まりと言うことができるのだが、残念ながらその記録はない。

確率論的には、月のクレーターを形成するクラスの巨大隕石衝突、あるいは全原始地球海洋を蒸発させるような規模の衝突は、42億年前には終了したのではないかという説もある。

一方で、小規模な隕石の重爆撃も39億年前には終わったという説が有力になっている。ということは、約42億~39億年前であれば、「化学進化から生命が誕生し、最古の持続可能な生態系」が形成されても、のちの生命進化と断絶していない可能性があるということである。

関連書籍

高井研『生命はなぜ生まれたのか』

オゾン層もなく、宇宙から有害光線が直接地表に降り注ぐ、40億年前の原始地球。過酷な環境のなか、深海には、地殻を突き破ったマントルと海水が化学反応を起こし、400度の熱水が噴き出すエネルギーの坩堝があった。その「深海熱水孔」で生まれた地球最初の“生き続けることのできる”生命が、「メタン菌」である。光合成もできない暗黒の世界で、メタン菌はいかにして生態系を築き、現在の我々に続く進化の「共通祖先」となりえたのか。その真理に世界で最も近づいている著者が、生物学、地質学の両面から、生命の起源に迫る、画期的な科学読本。

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生命はなぜ生まれたのか

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高井研

1969年、京都府生まれ。地球生物学者や宇宙生物学者と名乗ることが多い。専門は、深海や地殻内といった地球の極限環境に生息する微生物や生物の生理・生態や、その生態系の成り立ちと仕組みの解明。97年、京都大学大学院農学研究科水産学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、科学技術振興事業団科学技術特別研究員などを経て、2009年より、独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)海洋・極限環境生物圏領域深海・地殻内生命圏研究プログラムプログラムディレクター及び、プレカンブリアンエコシステムラボラトリーユニットリーダー。

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