1. Home
  2. 生き方
  3. 前進する日もしない日も
  4. フィンランド旅5〜独立記念日とチョコレー...

前進する日もしない日も

2020.03.09 公開 ポスト

フィンランド旅5〜独立記念日とチョコレート〜益田ミリ(イラストレーター)

12月6日はフィンランドの独立記念日である。ロシア統治下から独立し2019年で102年。毎年この日は祝日で、公共施設をはじめ多くの店を閉めるらしい。

旅は3日目。ホテルで朝食を取り、雨が小振りになった昼過ぎから街へ出た。スタバもアカデミア書店もデパートのストックマンも休みだった。

エスプラナーディ通りの「カフェ・エスプラナード」は営業していたので、温かい紅茶を飲む。キビキビと働くスタッフを見るのもここへ来る楽しみのひとつである。

店を出る頃には雨がやんでいた。歩いて元老院広場へ。今日からクリスマスマーケットが始まっているはずである。

ヘルシンキ大聖堂の前に広がる元老院広場にはたくさんの屋台が並んでいた。家型の屋台が何列も並んでいて妖精たちの集合住宅のよう。巨大クリスマスツリーが立ち、立派なメリーゴーラウンドまで設置されていた。

屋台を一列ずつ見てまわる。毛糸の帽子の屋台があった。赤、青、ピンク、緑。いろんな色があり、帽子のてっぺんのポンポン(これもたくさん色がある)を選んで組み合わせることができる。楽しそうなので買うことに。わたしは紺色の帽子にグレーのポンポン。お店の青年がその場で手際よく帽子にポンポンを結んでくれる。

「どこから来たの?」と青年に英語で聞かれ、日本だと答えると、「来年の春に日本に行くんだよ」と彼は言った。日本に住む友達と富士山に登るのだという。「富士山はとても美しい山です」と教科書通りの英語で伝えると、「でも、デンジャラスなんでしょう?」と彼が聞いてきた。富士山に登ったことはないが、高い山なんだから危険も伴うはず。軽装備で出かけて欲しくなかったから、「デンジャラスだよ。だから気をつけて楽しんで!」と言っておいた。

ポンポン付き帽子を買ってすぐかぶって別れを告げる。

「じゃ、次は日本で会おう!」

と青年が笑った。かわいい笑顔だった。彼が日本でいい思い出を作れるといいなと思った。

クリスマスマーケット内でドーナツを食べている人がいた。どこだ? どこだ? 探していたら揚げたてドーナツの屋台があった。ホットコーヒーと一緒に買ってベンチに座る。

ここから先は会員限定のコンテンツです

無料!
今すぐ会員登録して続きを読む
会員の方はログインして続きをお楽しみください ログイン

関連書籍

益田ミリ『やっぱり、僕の姉ちゃん』

勝負下着は、戦の規模で使い分け。恋のライバルは、付き合い始めの頃のわたし。失恋してちゃんと泣くのは、恋をしていた自分への礼儀。仕事は人生のすべてではないが、仕事があると思うと乗り越えられることもある。辛口だけど、いつだって自由で真っ直ぐ。そんな僕の姉ちゃんの言葉には、恋と人生の本音がいっぱい! 待望の人気シリーズ第三弾。

益田ミリ『考えごとしたい旅 フィンランドとシナモンロール』

温かいコーヒーとシナモンロールを頬張りながら。考える。時間とか、人生とか、自分について。「食べて」「歩いて」「考える」フィンランドひとり旅。

益田ミリ『美しいものを見に行くツアーひとり参加』

「美しいものを見ておきたい」。40歳になった時、なぜかそんな気持ちになりました。
北欧のオーロラ、ドイツのクリスマスマーケット、赤毛のアンの舞台・プリンスエドワード島……。

益田ミリ『今日のガッちゃん』

ありそうでなかった猫の2コマ漫画。
なにげない日々の美しさや切なさを、猫のガッちゃんの視線で描きます。
(作 益田ミリ 絵 平澤一平)

『今日のガッちゃん』 
『みんなのミシマガジン』 

益田ミリ『わたしを支えるもの すーちゃんの人生』

森本好子(もりもと よしこ)、本日、40歳になってしまいました。マジか――。
――世界は美しく、わたしは生きている。人気シリーズ第5弾。

{ この記事をシェアする }

前進する日もしない日も

仕事の打ち合わせ中、まったく違うことを考えてしまう。ひとり旅に出ても、相変わらず誰とも触れ合わない。無地の傘が欲しいのに、チェックの傘を買ってくる。〈やれやれ〉な大人に仕上がってきたけれど、人生について考えない日はない。そんな日々のアレコレ。

 

編集部からのお知らせ
「前進する日もしない日も」は2022年4月にリニューアルしてスタートします。どうぞご期待ください!

バックナンバー

益田ミリ イラストレーター

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に、漫画『すーちゃん』『僕の姉ちゃん』『沢村さん家のこんな毎日』『週末、森で』『きみの隣りで』『今日の人生』『泣き虫チエ子さん』『こはる日記』『お茶の時間』『マリコ、うまくいくよ』などがある。また、エッセイに『女という生きもの』『美しいものを見に行くツアーひとり参加』『しあわせしりとり』『永遠のおでかけ』『かわいい見聞録』や、小説に『一度だけ』『五年前の忘れ物』など、ジャンルを超えて活躍する。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP