一冊目の小説出版のあと、東京で一人暮らしを始めた。もちろん作家だけでは食べていけないので、さまざまなアルバイトについた。
長く人と一緒にいることが苦手だったので、週末だけの短期バイトをいくつも繰り返した。当時はまだ景気が良かったから、そこそこのバイト代が貰えた。ひと月の半分バイトして、残り半分は、映画を観たり舞台を見たり本を読んだりして過ごした。担当編集さんは博識で、わたしにたくさんの面白い映画を教えてくれたし、映画の観方も教えてくれた。
そうこうしているうちに、二作目の小説を書きましょうか、という話になった。
なにを書くかは、あんまり迷わなかったと思う。友達の恋人を好きになってしまった十代の女の子と、彼女が先生と呼ぶ男の話だ。とても私的な物語だった。一月半くらいで書き上げた。そして書き上げたその日に、出版社まで持って行った。当時はまだインターネットも携帯電話も普及していなかったのだ。
ここから先は会員限定のコンテンツです
- 無料!
- 今すぐ会員登録して続きを読む
- 会員の方はログインして続きをお楽しみください ログイン
愛の病
恋愛小説の名手は、「日常」からどんな「物語」を見出すのか。まるで、一遍の小説を読んでいるかのような読後感を味わえる名エッセイです。