Fuckは日常英会話のなかで最頻出ワードなのに、学校では絶対に教えてくれない英語の代表格。適切に使えば場が和み相手との距離も縮まりますが、むやみに使えば命の危険も。英語には使い方を間違えると酷い誤解や怒りを招き、たったひと言で人生を棒に振りかねない表現が数多くあります。ではどんな言葉がパワハラ、セクハラと認識され、差別的だと大問題になるのでしょうか。
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「週末は働けますか」と質問してはいけない
日本でパートやアルバイトに応募すると、たとえば採用担当者から、次のような質問をされます。
Can you work on weekends?(週末は働けますか?)
これはNGです。なぜでしょうか。それは、間接的に宗教に関する質問をしていることになるからです。日曜日に教会に行くか聞いているのと同じことだ、と判断されるのです。
Can you work evenings?(夕方働けますか?)
これもNGです。幼い子どもがいるのではないかとか、家庭に事情があるのではないかということを間接的に、探るように聞いていると判断されるからです。また、夕方という表現が曖昧で、何時のことかはっきりせず、後々トラブルになる可能性もあります。
読者の皆さんからは、「ちょっと待て! 相手の意向を聞いているだけじゃないか。それに、こんなにNGが多くては面接できないじゃないか!」「採用担当者がアルバイトにきてもらいたい時間帯を伝えて何が悪い? なぜ、そんなに気を使わなければならないのか」というお叱りの声が聞こえてきそうです。
私もそう思います。しかし、先述の質問の仕方だと、「間接的に宗教に関する質問をしている」と判断されてしまうのです。冗談ではなく、これが現実なので向き合わなければなりません。海外で仕事する方だけでなく、日本も少子高齢化社会となり外国人労働者が増えているので、大袈裟かもしれませんが、世界基準(アメリカ基準)は知っておいたほうがいいでしょう。それでは、許される質問に変えてみましょう。
What days can you work?(何曜日に働けますか?)
What days and shifts can you work?(何曜日の何時に働けますか?)
Are there shifts you cannot work?(働くことができない時間帯はありますか?)
「ちょっと待て! ほとんど一緒じゃないか!」とまた叱られそうですが、違います。違いがどこにあるかわかるでしょうか。前者は、特定の時間帯を挙げて、「夕方働けますか」と聞いているので、プライベートに踏み込んでいます。また、はっきりした時間がわかりません。それに対し、「何曜日に働けますか?」という聞き方であれば、相手の自由意志を聞いているだけ、ということになるのです。警察の取り調べではありませんが、肝心なことは応募者の口からいわせなければならないということです(すごく面倒くさいですね)。それでは、政治的に正しいアルバイト採用の会話例を紹介します。
面接官:What days can you work?(何曜日に働けますか?)
応募者:I cannot work on Sundays. But I can work weekdays.(毎週日曜日は働けません。でも、平日は働けます)
ここで面接官が、「ああ、日曜日は教会に行くんだな」と心のなかで思うのは自由ですが、決して口にしてはいけません。宗教に関することは、一切質問すべきではありません。たとえ同じ宗教だろうと思ったとしても、雇用に際して質問することは厳禁です。
日本人の感覚からすると、同郷であったり、同じ大学だったりすると一気に距離が縮まり、ついいろんなことを聞いてしまいそうですが、そういう感情は捨ててください。自分の身を守るためです。
「変わった名前ですね」と話を進めてはいけない
質問そのものではなく、質問のタイミングが問題になる場合もあります。
たとえば、emergency contact name(緊急連絡先)については雇用決定後でなければ聞いてはいけません。なぜなら、出身国がわかってしまう可能性があり、それが採用に影響することもあるからです。同様の理由で、次のような質問も言葉上、出身国は聞いていませんがNGです。
How long has your family been in the U.S.?(あなたの家族はどれくらいの期間、米国に住んでいますか?)
Tha’t s an unusual name—what does it mean?(変わった名前ですね。どういう意味ですか?)
How did you learn to speak Chinese?(どのようにして中国語を習いましたか?)
「なぜだめなの?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、質問に対する応答の展開を考えてみてください。
「どれくらいの期間、米国に住んでいますか?」という質問に対し、「3年です」と答えたら、3年前に米国に入国した移民であることがわかります。「変わった名前ですね。どういう意味ですか?」への応答は、たとえば「韓国語で〇〇という意味です」という回答になり、出身国がわかる可能性があります。「どのようにして中国語を習いましたか?」は、「10歳まで中国で育ちました」など、これもまた出身国がわかる可能性があります。職務遂行とは関係がないことと考えられているため、質問すべきではありません。
ここでまたまた、「採用する側としては雇ってもいい人物かどうか、不法入国者かどうか、確認するのは当然じゃないか」とお?りの声が聞こえてきそうです。たしかに、そのとおりです。では、どのような質問が適切なのでしょうか?
Are you eligible to work in the U.S.?(米国で働く資格はありますか?)
要は移民であるかどうかを聞くのではなく、米国で合法的に働くことができるかどうか、それだけを問うべきだということです。
日本ではパートやアルバイトの面接で、間接的な質問をすることが多いのではないでしょうか。たとえば、夕方や夜に働けるか、週末に働けるかなどを知りたいときに、意図を胸の内に秘め、次のような質問をついしがちです。
「お子さんはいますか?」(→ 子どもがいれば、夕方と夜、そして週末はシフトに入れないな)、「結婚されていますか?」(→ 結婚していたら、夜と週末はシフトに入れないな。妊娠してシフトに入れなくなる可能性もあるな)、「学業との両立はできますか?」(→ 学業が忙しければ雇用側の求めるシフトには入れないな、テスト前だからといって長期の休みは取ってほしくないな)、などです。
この場合、アメリカでは、その回答によって(プライベートな情報によって)採用を判断している(差別している)と思われる可能性があります。それでは、どんな質問であればいいのでしょう。ここでもうひとつ、政治的に正しいアルバイト採用の会話例を紹介します。
面接官:Would you be able to work a 10:00 a.m. to 7:00 p.m. schedule?(午前10時から午後7時のシフトで働くことができますか?)
応募者:Except Sundays, yes.(日曜日以外であれば大丈夫です)
この後に続けて、決して理由を聞いてはいけません。「なぜですか?」と聞きたくなるところでしょうが、本人が働けないといっているのですから、聞く必要はありません。
日本人にはストレートな質問の仕方で抵抗のある会話かもしれませんが、イエス、ノークエスチョンは極めて合理的です。余計な詮索をせずとも、イエスであれば採用、ノーであれば不採用です。仕事とは関係のない家庭や生活の事情を聞かれるほうが、欧米人にとってはむしろ驚きなのです。